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律仁さんと共に……③

律仁さんの言う通り姉も悪気があって言っていたわけではないことは重々承知している。両親が姉に対して謝っていた姿に胸が痛くなり、あの時の俺は本当に自分のことしか見えていなかったのだと改めて痛感した。 「分かっています。もちろん凄く申し訳なくて落ち込んでますけど……。今回の事で姉の気持ちを知れて良かったって思ってるんです。じゃないと、俺は姉のあの時の苦しさを知らずに生きていたと思うから……。だから、家族を苦しめた分、恩返しじゃないですけど、改めて俺は強く生きなきゃなって……」 きっと前までの自分だったら、落ち込んで自分が生きていること事態申し訳なくなって悲観的なことばかり考えていたかもしれない。 だから、自然と前を向いた言葉が出てくる自分に驚いたが、こんな自分も悪くないと思えている。それはやっぱり、律仁さんが傍にいてくれているおかげだろうか……。  不思議と心にみなぎる感覚を覚え、胸に手を当てて浸っていると、律仁さんが「やっぱり、渉太の家みたいな家族いいな……。暖かくて……」と呟く。 渉太が顔を上げて窓辺に視線を向けると煙草に唇を寄せて、吸っては、吐いてを繰り返す彼の姿があった。 何処か彼の中で闇を抱えているような、そんな姿に先程、寂しそうに見えたのはあながち間違いではないような気がする。 「あの、律仁さん。話したくなかったらいいんですけど、律仁さんの家族の話、聞いてもいいですか?俺、自分のことは話してますけど、律仁さん自身のことあんまり知らないなって思って……」 律仁さんは煙草を吸い終えると、窓を閉め、唇で吸殻を挟んで黒い筒状のキーホルダーのようなものに入れた。機器をポケットにしまうと深く息を吐いていた。普段見せない鬱々とした表情からもしかしたら、彼にとって家族のことを話すのは、古傷が痛むような話なのかもしれない。 「渉太はもう何となく分かっているかもしれないけど、俺さ。片親なんだよね」 「それは……その」  本人に言われなくとも予感がしていただけに驚きはしていなかったが、なんて返せばいいのか戸惑っていると「死別とかじゃなくて、単純に父親が誰か分からないってヤツ。母親が若い頃遊んでたホストだとか聞いた事あるけど」と明るい口調で話してきた。 「親は昔から夜の仕事していてさ、夜はほとんど家にいなかったし、自由奔放な人だったけど、俺が芸能界に入るまでは渉太の家みたいな狭い部屋で昼は一緒にいてくれて、その時間が唯一の楽しみだったんだよね」 「だから渉太と一緒に居る時間が無理してでも欲しくて焦がれちゃうのかも」と半ば自虐的に笑みを見せてくる姿が痛々しくて、渉太は笑えず、黙って聞いていることしかできなかった。 そんな渉太を余所に、律仁さんはゆっくりと渉太の居るベッドの方へと近づいてきては、縁に腰かけては話を続ける。

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