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涙が出るほどの好き
部活が終わり、帰り支度をしたサッカー部員たちがポツポツと帰っていく姿が見えた。
『あっ…』
思わず声が漏れる…
校庭に2つの影が映し出されていて、その影が男女のものだとわかる。
見たくない…
それはあの影が君と彼女だとわかっているから…。
影がだんだんと小さくなり、校舎の角から2人の姿が現れた。
しっかりと君の腕に絡みつき、体を密着させて見上げながら幸せそうに笑っている彼女と、そんな彼女を優しそうに見ている君。
ぽろりと涙が頬を伝う。
あー、俺…こんなにも好きなんだ…
改めて自分の気持ちの大きさに気づいた。
そっと窓を閉めて、その場にしゃがみ込む。
苦しいよ…
ねえ、晴輝…
俺、ここが苦しい…
胸に拳を当てて、ぎゅっと力いっぱい握りしめる。
ーガラーッー
誰もいないはずの教室のドアが開いた。
『慶太?』
俺の胸がきゅっと締めつけられる。
聞こえてきた声に、答えることができない。
こんな姿…見せられるわけない。
少しずつ近づいてくる足音…
『見つけた』
『あっ…』
『電気ついてるの見えたから』
『なんで…?』
『だって、いつもここから僕のこと見てたでしょ?』
『えっ…?』
『気づいていないとでも思っていた? そんなわけないじゃん』
話ながらも俺たちの距離は近づいていく。
それでも俺は動けなくて…
ただ、君がゆっくりと歩み寄ってくる足元を見つめていた。
『泣くくらい僕のことが好き?』
『そんなこと…』
『僕はそれくらいの方が嬉しいけど…』
目線を合わせるようにしゃがみ込み、俺を覗き込んでくる。
『なっ、なに、言ってるの?』
『だって、これが僕以外の奴を想って流してるものなら、ものすごく嫌だし』
『彼女…いるくせに…』
『ん? 彼女って…?』
『とぼけるなよ! さっきも仲良さそうに歩いていたじゃん』
はぐらかされてイラッとした俺は、思わず大きな声をあげた。
その様子を見て、君が『あははっ』と笑い出す。
ムッとして顔を上げると、
『やっぱり…僕のこと好きじゃん』
『悪いかよ…』
『全然…むしろ大歓迎』
ニコッと微笑みながら頭にポンッと俺よりも小さくて細い手が乗せられる。
『ふざけるな…』
『ふざけてないし。僕はいつだって本気だけど?』
『じゃあ、あの子は?』
『彼女はただのマネージャー。まあ、スキンシップが多くてめんどくさいって思ってたけど…』
『最近、ずっと一緒にいたじゃん…』
『それは、まあ色々と…』
『色々って…どうせ言えないんだろ?』
不貞腐れたように顔を背けると、君が「はぁ…」と大きな溜め息をつく。
『あれは、彼女を慶太に近づけないため』
『へっ?』
君の言葉に呆気に取られてしまう。
俺に近づけないため…?
そのために何で君が仲良くする必要があるの?
『何でって顔すんなよ。あいつが慶太を紹介しろって煩いから。そのまま放っておいたら何するかわかんなかったし…』
『何かって…? 俺だってそれくらいちゃんと対応できるけど?』
『僕が嫌だったんだ…他のやつが慶太に近づくのが…』
『そんなの、俺だって晴輝が他の女子と一緒にいるとこなんて見たくないに決まってんじゃん…』
『ゴメン…』
案外素直に謝ってくる君に、それ以上
何も言えなくなってしまう。
けど、そんな姿が何だかさっきまでと違いすぎて、クスッと笑った。
『なんだよ…』
『さっきまでの勢いがなくなっちゃったから…』
『悪いことしたなって反省してるんだけど…』
『ふーん…』
今度は君が不貞腐れたように答えるから、俺はわざと短く返事をしながら顔を逸らしたけど、すでに口元が緩んでしまってる。
君が他の誰かといることが泣くほど苦しかったはずなのに、今俺の前にいる君は、俺のたった一言でこんなにも余裕がなくなってしまうくらい可愛い。
そんな君をもっと好きになっている自分にも、笑いが込み上げてくる。
『ふふっ…あははっ…』
『そんな笑うなよ…』
『違うよ…違う。どんな晴輝を見ても、もっと好きになってる自分がいるなって思って…』
『それって…笑うとこ?』
『だって、さっきまで涙が出るくらい遠いとこにいたはずなのに、こんな近くにいるんだもん』
『それは、慶太が僕を好きな気持ちよりも、もっと僕の方が慶太を好きだからだと思うよ』
『俺の方が晴輝を好きだし』
『いや、僕の方が…』
そう言いかけて、パチッと目が合った俺たちは、同時に「くふふっ…」って笑った。
さっきから笑ってばかり。
でも、それは…大好きな君がそこにいるから。
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