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第1話
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僕の目の前にあるのは、一着のMET(Metropolitan Police/ロンドン警視庁)のユニフォーム。濃紺のすっきりとしたシンプルなデザインで、金ボタンと胸元のシルバーチェーンがアクセントになっている。
6年前のある日、僕はこのユニフォームの持ち主に一目惚れした。
眩しい金髪と美しいブルーアイズ、知的な表情がとても素敵な人だった。すらりと背も高いから、濃紺のユニフォームが本当によく似合っていて、僕は一目見て目が離せなくなった。きらきらと輝く初夏の陽光の中、彼だけがまるでたった一人のこの世界の住人みたいに見えた。
――なんて、綺麗な人。
僕の胸の鼓動は今まで感じた事がないくらい早くなって、このまま息が止って死ぬかも、と思った。
僕が6年前、ヘンドン(MET警察学校の通称名)の卒業セレモニーに出席したのは、単なる偶然だった。
その年、僕は大学の最終学年に在籍していて、オックスフォードにいたのだけれど、自分が所有しているロンドンの不動産のGF(グランドフロア/日本式1F)にギャラリーをオープンしたところだった。ずっとアートが好きで、大学でも美術史を専攻していたから、何か関連する仕事に就きたいと考えて、それなら自分でビジネスを始めればいいんだ、と気付いたんだ。
僕自身はまだもう一年大学が残っていたから、従兄弟のローリーに相談して、彼にギャラリーの実務を全部任せることにした。実は彼も僕と同じく大学ではアートを専攻していたのだけれど、僕と違って大学院ではアートビジネスについて勉強していたから、彼の方がずっと実務には詳しかったんだ。
実際、ギャラリーのオープンから業務を軌道に乗せるまでの1年間、ローリーはすごく良くやってくれた。今のギャラリーがあるのも彼のお陰だ。
そんな理由で僕はロンドンとオックスフォードをしょっちゅう行き来していたんだけど、同時期に叔父さんがMETの警視総監に就任することになった。
たまたま夏休みに入ってすぐのことで、僕はロンドンにいた。突然、叔父さんから「相談したいことがある」と話が来て、会ってみるとMET内にアート関連の犯罪捜査を専門とする部署を新設したい、ついては参考になるような意見を聞きたい、と言う事だった。
子供の頃から、父親同然に僕を育ててくれた叔父さんの頼みを断る理由なんて、何もなかった。逆に今までの恩返しに、何か力になれることがあるのなら、と僕は思っていた。
話を聞いてみると、今までMET内にはアート関連の事件を捜査する専門部署がなく、様々な部署がその都度付け焼き刃で対応してきたものの、不手際ばかりで周囲から批難を浴びることが多かったのだそうだ。そこで叔父さんが総監に就任するにあたって、METの改革の目玉として新部署創設に乗り出したのだ。
叔父さんは僕がアート関連の話に詳しいから、と身内の気安さから助けを求めてきた。僕なんかで役に立つのかどうか分からなかったけど、犯罪捜査には以前から興味があったので、一も二もなくその話には飛びついた。
そして、あの運命の日、僕は叔父さんとヘンドンに行ったんだ。
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