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第11話

4. ―おまけ・その後の二人―  あの狂乱の夜から数ヶ月が過ぎたある日、いつものようにパブでレイと待ち合わせして、今日あったことなどを話していると、ふいに彼が俺の顔を覗き込むようにして、小声で尋ねてくる。 「……ねえ、リチャード……」 「ん? 何だ?」 「あのさ、あのね……その……」  俺は驚いた。あの、レイが……何でも言いたい放題のレイが、何か言いたいことを言えずに、言い淀んでいる。俺は少し優越感を感じていた。 「何? 言いたいことあるなら、遠慮無く言えよ」 「ねえ、またユニフォーム着てしてよ?」 「……え?」  俺の優越感は一瞬で吹っ飛んだ。 「だっ、駄目、駄目駄目! 絶対駄目!」  俺は大慌てて拒否する。レイはそんな俺をものすごく不満そうな顔で見つめた。 「何で?! リチャードだって喜んでたのに。どうして駄目なの?」 「そっ、それはだな……」  今度は俺が言い淀む番だった。 「何? 聞こえないよ、リチャード。もっと大きな声で言ってよ」  あまりにも周囲が煩いので、俺が話した言葉がレイの耳まで届かなかったらしい。しかし、こんなことは大声ではとても言えない。……恥ずかしすぎて。  俺はそっと彼の耳元に口を当てると、正直に話した。 「あの次の日、全然仕事にならなかったんだよ」 「ええ? どうして?!」  レイは全く理解出来ない、と言う顔で俺を見つめた。 「仕事中、ずっとレイの……あんな姿とかこんな姿とかが頭から離れなくてさ……とてもじゃないけど、仕事に集中なんて出来なかったんだよ……」  俺は恥ずかしさのあまり俯いた。絶対に顔が赤くなってたに違いない。そっとレイの顔を盗み見ると、彼も頬を真っ赤に染めていた。 「なっ、何でそんなこと仕事中に思い出したりするの? 止めてよ、恥ずかしいじゃないか!」 「だから、恥ずかしいから、もう駄目。しばらくユニフォームはお預け。分かった?」 「……う、うん。分かった……」  レイは恥ずかしそうに俯くと、渋々と言った返事をした。恥ずかしいけれど、彼はやっぱり俺のユニフォーム姿には特別の気持ちがあるのだろう。なかなか諦めきれない様子でもあった。  だが、どんなに可愛い顔をしておねだりしてきたとしても、絶対にもうこれだけは俺は譲れない。……仕事中にまであんな姿を思いだしてしまい、下半身が危なかったんだ……本当にあの日はどうしようかと困り果てたんだから。二度とあんなやばい真似は御免被る。

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