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おやすみ
「なに、キスしてほしいの? 」
冬治は本に目を向けたまま、すぐ隣で寝そべっている春輝に言った。
「どうして、そう思うの」
「視線がうるさい」
「……ごめん」
本を閉じて、春輝に向きなおる。指の背で頬をなぞり上げ、耳の上で切り揃えられた黒髪を撫でてやる。
「いつも『キスして』って言うの迷って、二回に一回は諦める仕草してる。気づいてなかった? 」
「気づきませんでした……」
教えてやるんじゃなかったかな。こんなにかわいいところ、もう見せてくれないかも。
などという考えは、ベッドサイドの灯りだけでもよくわかるほど赤面した春輝を前に、どうでもよくなった。
「で、どこがいいの? 」
「……ほっぺ」
「ばーか素直にくちびるって言え」
ご希望通り頬と、ついでにくちびるにもキスをしてやる。
「結局どっちもしてくれるんだ」
ぽやぽやした笑顔に、布団をかけてやる。
「もう寝ろ」
「ふふ、おやすみ」
かちり、と明りを消す音が響く。
ほとんど間を置かず、春輝の寝息が聞こえてきた。
「……ほんとに寝たのか」
このごろ夜勤続きで、疲れてたんだろうな。
「起きたら抱き潰してくれよ」
春輝の耳元でそう囁いた。
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