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おはよう
冬治は朝に弱い。
高校時代からそうだった。朝のホームルームにはいつもぎりぎりで、先生にいつもどやされていた。本当に朝に弱いだけで、あとは完璧人間。テストの順位は上から数えた方が早くて、体育祭でも大活躍するくらい運動神経がいい。そういうわけで、誰も冬治のことを馬鹿にするやつはいなかった。
そんな冬治が、ベッドの上で掛布団にくるまって恨み言を吐いているなんて、クラスのみんなは想像もつかないだろうな。
「冬治、もうすぐ八時だよ。起きないの? 」
「……起きない」
「せっかく朝ご飯作ったのに、冷めちゃうよ」
「起きる」
「おはよう」
「……はよ」
くあ、と大口を開けて、また閉じる。冬治のこんなところ、世界中でいったいどれだけの人が知っているのだろう?
ところで、僕はあまり料理がうまくない。冬治とちがって朝は強いから、朝ご飯はたいてい僕が用意する。しかし強いといっても時間は無いので、買ってきたお惣菜を出したり、お湯を入れるだけのスープをつくったりするだけだ。
今日はふたりとも休みだから、張り切って目玉焼きを焼いてみた。けれど。
「ぼろぼろになっちゃってごめんね」
白身と黄身は混ざり、フライパンからはがす衝撃であちこちちぎれ、見るも無残な姿だ。二回目に焼いた冬治のお皿の方は、比較的ましな姿をしている、と思う。
「……」
「やっぱり、冬治みたいにうまくいかないね」
「俺そっち食べる」
「え? 」
ん、と右手を伸ばしてきた。
「や、でも、そっちの方がうまくできたよ」
「春輝の、はじめての、食べたい」
朝から何言ってんの、と言いかけて、目玉焼きのことだと気づいた。
「も、もう何回も焼いてるんだけどな、寝ぼけてるの? 」
「んー」
本当に寝ぼけている。話が通じないので、仕方なくお皿を交換する。
この後も冬治のお寝ぼけは続き、いつもの倍の時間をかけて完食した。
「ごちそうさま。ありがと、はる」
言い終わらないうちに、冬治は机に突っ伏してしまった。
「冬治、今日はもうベッドから出なくていいよ」
お休みだし、たまにはいいよね。背中をさすってやると、冬治が跳ね起きた。
「わかったすぐ行く」
そう言うと冬治は、エプロンをつけたままの僕の手首を掴んで、ベッドルームに向かった。
そういう意味で言ったんじゃないけどね? あとこのままだと抱き潰されるのは冬治だからね?
昨晩のお願い通りにするからね?
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