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第八章・4
「フェラーリは、いつもの駐車場に止めてあるの?」
「ああ。大きな車が楽に入れる場所は、少ないからな」
悠は嬉しくて、にこにこしていた。
前と同じだ。
これで、三回目。
そして慎也さんは僕に向かって、こう言うんだ。
ぐずぐずするな。乗れ、って。
だが、慎也はそう言わなかった。
「悠! 伏せろ!」
「え? え?」
パン、と乾いた音が鳴った。
訳の分からぬまま、慎也が覆いかぶさってきた。
「慎也さん? 慎也さん!」
パン、パン、と耳障りで不吉な音だけが聞こえる。
慎也は、撃たれた、と感じていた。
始めの一発目は、胸に。
後の二発は、背中に。
ただ一心に、悠を守った。
雛をかばう親鳥のように、その体をすっぽりと覆って守り抜いた。
遠くから、組員が自分を呼ぶ声が聞こえる。
援軍が来たらしい。
「慎也さん! 慎也さんってば、しっかり!」
悠が、耳元で叫んでいる。
「悠、無事か?」
「今、救急車呼んだから!」
だから、死なないで!
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