54 / 68

第八章・4

「フェラーリは、いつもの駐車場に止めてあるの?」 「ああ。大きな車が楽に入れる場所は、少ないからな」  悠は嬉しくて、にこにこしていた。  前と同じだ。  これで、三回目。  そして慎也さんは僕に向かって、こう言うんだ。  ぐずぐずするな。乗れ、って。  だが、慎也はそう言わなかった。 「悠! 伏せろ!」 「え? え?」  パン、と乾いた音が鳴った。  訳の分からぬまま、慎也が覆いかぶさってきた。 「慎也さん? 慎也さん!」  パン、パン、と耳障りで不吉な音だけが聞こえる。  慎也は、撃たれた、と感じていた。  始めの一発目は、胸に。  後の二発は、背中に。  ただ一心に、悠を守った。  雛をかばう親鳥のように、その体をすっぽりと覆って守り抜いた。  遠くから、組員が自分を呼ぶ声が聞こえる。  援軍が来たらしい。 「慎也さん! 慎也さんってば、しっかり!」  悠が、耳元で叫んでいる。 「悠、無事か?」 「今、救急車呼んだから!」  だから、死なないで!

ともだちにシェアしよう!