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第九章・4

 悠が、言葉を失って固まっている。 (ああ、やはり早急すぎたか)  いや、極道の元に嫁げということ自体、無茶な話だったか。 「……嬉しい」 「え?」 「嬉しいよ、僕」  悠の目には、涙が浮かんでいた。 「僕、こんなに幸せになってもいいのかな」  ぐしゅぐしゅと瞼をこする悠の手を、慎也はそっと取った。 「それで、返事は?」 「OKに決まってるじゃん!」  慎也は、悠を抱きしめた。  固く、強く。  悠の腕も、しっかりと慎也の体にまわされた。  もう、離さない。  もう、離れない。 「愛してる、悠」 「僕も、慎也さんのこと、愛してるよ」 「結婚、してくれ」 「うん」  時の流れを止めてしまうほど、二人は長く抱き合っていた。

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