18 / 137
デート1
「――で…お前はどんな服が好みなんだ?」
時刻はもうすぐで午前10時を回ろうかといったところ…
平日の午前中という事もあってか
人がまだまばらなアウトレット内を信と葵は並んで歩き…
信がさりげなく隣を歩く葵に服の好みなんかを聞いてみるが――
「…服の――好み…?」
信からの質問に葵は眉を顰 め…
少し困ったような表情を浮かべると
躊躇 いがちにその口を開いた…
「…これといって特には…
そもそも俺はその…学校の制服以外はちょっとした部屋着が数着と…
後は“父さん”の仕事関係者に俺をお披露目する際に着用する
フォーマル衣装以外…
“父さん”から家で着ることを許されていなかったから…
“どんな服が好み?”なんて聞かれても…
俺にはどんな服がいいのかさっぱり…」
「――――は?」
葵の口から唐突に出た衝撃発言に信は絶句し…
信は今聞いた事を確認するかのように恐る恐る口を開く
「…ちょっと待てお前それ…一体どういう事だ…?
家では親父さんが許可した服以外…
持たせてはもらえなかったって事なのか…?」
「…」
葵が小さくコクリ…と頷 き――
信がますます絶句する…
「…マジか……え、じゃあ外出とかは…?
それも親父さんが用意した服を…」
「…さっき言ったでしょ?
俺が持っていた服は学生服と数着の部屋着…それとフォーマルだけだって…
外出なんてこの6年…さっき言った“父さん”の仕事の関係者と
“父さんと一緒に”会う時以外…許されていなかったから…
外出用の普段着とかそんなのないよ…
唯一一人で外を歩ける時間があるとすれば――
学校帰りくらいだけだったし…」
―――そう…俺が“俺自身を自由に出来る”のは学校帰りの僅かな時間…
それも“あの人”が俺につけかた“監視の目”を振り切る事で
ようやく手に入れることの出来た自由な時間…
その僅かな時間を使って俺はあの日何とか駅まで行き――
そこで信と出会った…
“あの人”から永遠に逃げようとしていた俺を“救ってくれた”信と…
「…ッ、」
葵は信と会った日の出来事を思い出し…
その表情を泣きそうに歪めながら
溢れ出そうになる感情を押し殺すかのように俯く…
そこに信の大きな手が、葵を気遣うように葵の頭をそっと撫で――
「…流石に…此処で泣けとまでは言えねーけど…
もし嫌なことを思い出させちまったのなら――」
「…ッ、嫌な事…じゃ、ない…
嫌な事じゃないよ…ただ…」
「ただ…?」
葵の手が…自分の頭を撫でている信の手を包み込むように触れ…
葵は俯いたまま、小さな声で呟いた…
「…信…
ありがと…」
「ッ!?なっ…なんだよ!突然…お礼なんて…ビックリするじゃねーか…
俺…お前に礼言われるような事――なんかしたか?」
信は照れ隠しに苦笑を浮かべ――
葵の頭を撫でていたその手を、そこから離そうとしたその時…
その手を包み込むようにして触れていた葵の手が
離れようとする信の手をグッと引き止め――
そのままその手を自分の頬まで引き寄せると
その手に頬をすり寄せながら
葵が小さく呟いた…
「…したよ。
分かってるくせに…」
「………」
信は何も言わず…
ただ黙って自分の手に頬をすり寄せる葵の姿を見つめる…
そこに葵が信の手に擦り寄りながら視線を上げ
自分を見つめる信に視線を合わせると
微笑みながら囁いた
「俺を――見つけてくれて…拾ってくれてありがとう…信…」
ともだちにシェアしよう!