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受け取るもの。返すもの。

二人が急ぎ足でダイニングキッチンに戻ると 白いフリルのついたエプロン姿の葵が 鍋の中身をゆっくりとかき回しながら後ろを振り向き… 「あ…お帰りなさい二人とも…なに話してたの?」 微笑みながら二人に向かって話しかけるその姿はまるで 夫を出迎える新妻のようで… 「…あのエプロン…」 帰ってきた当初は葵の隣に知らない男がいた事で頭に血が上り… 葵の姿をよく見ることが出来なかったから気づけなかったが―― 葵のそのエプロン姿に信はグッとクルものを感じて思わず無意識に呟き… ソレを信の隣で聞いてた忠が葵の姿に見惚れながら口を開いた 「ああ…アレ…?  スーパーの帰りに偶然見かけた手芸屋っていうの?  そこに寄ったときに俺が見つけて買ったのよ…  なあ信…俺――いい仕事したろ…?」 「…でかした。」 二人は葵を見つめながら互いの片手の拳をコツンと突き合う… そこに葵が不安げに鍋の中身をかき混ぜながら二人に尋ね―― 「…ねぇ…ところでさぁ…コレって――このままでいいの…?」 「コレ…?」 「鍋の中身…」 二人が葵に近づき、鍋の中身を覗き込むと そこには良い匂いを漂わせながらクツクツと煮込んでいる最中のカレーが見え… 「ああ…これなら後はよく火が通るまで弱火で煮込むだけだから  このままでいいだろう…」 信が葵の手に持ったままのオタマをスッと受け取り オタマで中の様子を確かめながら話す 「ただ――俺が見た時葵…  ニンジンとか結構デカイまま鍋に入れちゃったから――  火が通るのにかなり時間がかかると思うけど…」 「…コレか…確かにデカイな。」 信がオタマでニンジンをすくって見せると そこには一口大とは言い難い大きさのニンジンがゴロ…と乗っかてて―― 「あ…ゴメン…ニンジン切るの怖かったから大きいまま入れちゃった…」 「…初めて作るカレーだし――怖かったのなら仕方ない…気にするな。  まあ…コレに火を通すためなら多少肉は固くなるだろうが――  それより今は蓋をして…出来上がるのを待つとしよう…  ところで葵…」 「ん…?」 「…俺の為にカレーを作ってくれたんだって…?  ありがとな。」 「っ…そんなっ、、  俺はただ――信から“受け取る”ばっかりで何も“返せていない”から…  だから何か返せないかなって思っただけで…、  …てか忠…っ、信には言わないでって言ったのに…酷い…」 「ッ悪い…なんか誤解されそうだったんでつい…」 「もう…っ、」 顔を赤くしながら不貞腐れてしまった葵の姿を 信は優しく微笑みながら見つめる… ―――何も返せていない…か…    そんな事全然ないんだがな…    むしろ俺は――    お前が傍にいるだけで十分すぎるほど受け取っているんだが…    お前と触れる手や足先から伝わるぬくもりや――    お前が傍にいるだけで感じることの出来る安らぎを… 信は更に目を細め… 今まで感じることのなかった“葵から受け取っているもの”に 胸の奥が暖かくなるのを感じながら鍋に蓋をし、火を弱火にすると 改めて葵と忠の方へと向き直りながらその口を開いた 「…さてとそれじゃあ――  カレーが出来上がるまでの間…リビングでお前たちが出会った経緯を  じっくりと聞かせていただきますか――」 「げっ…さっき話したじゃんっ!」 「葵からはまだだが…?」 「あっ!聞いてよ信っ!忠ったら酷いんだよ?!  いきなり俺を食べるとかいいだして――」 「ほ~お…」 「ッだからアレはっ、」 葵と忠は信を挟み… まるでじゃれ合うようにしながら三人はキッチンを後にした… ※※※※※※※ 時刻は19時を少し過ぎた頃… 三人はダイニングで信が適当にレタスなどをちぎって作ったサラダと 葵が作ったカレーを中心に食卓を囲む… しかし―― 「…」 「…」 「…」 やはりというべきか何というべきか… 折角葵が作ったカレーは、かなりの時間煮込んだにも関わらず 大きすぎたニンジンの中心には火が通ていなかった上に肉は固く… お世辞にも美味しいと言える代物ではなくて… 葵と忠はカレーを前に沈んだ表情を見せる… 「…なんか…ごめんなさい…  俺がニンジン切るの怖がったばっかりにこんな…」 葵が皿の上で存在感を主張するニンジンをスプーンでコロコロと転がし… 泣きそうに顔を歪めながら他の二人に向かって謝る… そんな中―― 信は作った本人ですら食べるのを躊躇っているニンジンを何食わぬ顔で頬張り ゴリゴリと音を立てながら食べ終わると 俯いている葵に向け、微笑みながら言葉をかけた 「…まっ…ニンジンは確かにアレだったが――食えなくはないし…  むしろ初めてにしては悪くない出来だったと思うぞ?俺は。」 「ッ、無理しなくてもいいよ信…美味しくなかったでしょ…?カレー…」 「…まあな。」 「…ッ、」 「ッ!オイ信っ!葵がせっかくアンタの為に作ったっていうのに  そんな言い方――」 「…美味しくはなかったが――  それでも俺は今日お前が俺の為に作ってくれたこのカレーは最高に嬉しかった…  だから――お前さえよかったらまた…俺の為に何か…作ってくれるか…?」 柄にもなく…照れ臭そうにはにかみながらそう言う信の姿に… 今まで暗く…落ち込んだ表情を見せていた葵の表情が一気にパァッ!明るくなり そして 「ッ勿論っ!俺…信に喜んでもらえるんなら  これに懲りずにまた信の為に何か作ってみるよ。楽しみに待ってて。」 「ああ…待ってる…」 「フフッ…」 「………」 信と葵が楽しそうにお互いの顔を見合わせて微笑み合う中―― ―――チッ…なんだよ…恋人同士みたいにイチャつきやがって… そんな二人の様子を頬杖をつき… 面白くないといった眼差しで見つめながら忠は一人―― 生煮えのニンジンをゴリゴリと音を立てて食べた… ※※※※※※※ 時刻はもうじき21時になろうかというところ 葵は一人キッチンで洗い物をし、信は忠を見送るために玄関へ… 「…坊ちゃん…やはり俺が送った方が――」 「いいっていいって!まだバスも電車もあるし…  それにこんな時間にお前を連れだしたりなんかしたら葵が寂しがるだろ?  だから俺一人で帰るよ。ところで――」 「?」 「葵はホントーにお前の妹か…?」 「…弟ですが?」 「あっ…素で間違えたわ…  いや、そーじゃなくって――」 「…弟ですよ。」 「…ホントーに?」 「本当に。」 「だったら――俺が口説いても…」 「駄目です。」 「え”~?なんでぇ~…」 「何でもです。」 「…ケチ。」 「ケチで結構。それより坊ちゃん…なんで俺の家の近くに…?  今日何か俺に――話したいこととかあったんじゃ…」 「ん~?いや別に…?今日偶然お前んちの近くで個人的な用事があっただけ。  気にすんな。  それより――俺って駄目って言われるとますます燃えるタイプなんで…  信が駄目って言っても俺…葵の事諦めねーから。そんじゃまたっ!」 「何っ?!ちょ、、おいこらっ!!」 バタンッ!と扉は勢いよく閉じ―― 「ったく…なんなんだよアイツは…っ!」 一人残された信は玄関先で頭を抱えた…

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