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男のメンツ。
リビングで三人がケーキを食べながら何気ない話しをしていると――
信がふと、ある疑問に思っていた事を口にした
「…そーいや親父は――
何でお袋が日本に帰国してるって事が分かったんだ…?
息子の俺でさえお袋から帰国するだなんて連絡は来なかったってのに…
ましてや三年も前に離婚した親父の元にお袋から連絡を入れる何て事は
“絶対にあり得ない”だろうし…
一体どうやって知ったんだ…?」
「ッ…ん”ぐっ?!ゴホッ、ゴホッ、、ッ…どーやってか…だって…?
ン”ン”ッ…それは――その……アレだ。
―――――偶然…?」
稔はしどろもどろになりながらコーヒーを一口啜 ると
泳ぐ視線のまま信からスゥ~…と視線を逸らし…
信はそんな稔の様子にすぐにピンッ!と来て
呆れた様子でその口を開いた
「………嘘つけ。
どーせまた空港のデータベースにでも侵入して――
お袋の名前で勝手に渡航履歴とかフライト予約とかを閲覧したんだろ…
つかいい加減お袋の事は諦めろって!
女ってのは一度嫌いになった相手を再度好きになる事はほぼないって
昔からいわれてんだろっ?!
…何時までこんなストーカーみたいな事やってんだよ…
恥ずかしい…」
「ッ…別にそんなつもりじゃ…、、
…大体――僕と恵 さんが別れたのだって…
お互いの事が嫌いになって別れたわけじゃないし…」
「っじゃ何で別れたんだよ!」
「や……だからソレは~~…そのぉ~……
お互いに已 むに已 まれぬ事情ってやつがあってだな…」
「…ったく……な~にが“已むに已まれぬ事情”だよ…
三年前…俺には何の相談もなしに勝手に『僕(私)達離婚しました。』何て
二人して笑顔で俺のところに報告しに来たくせに…」
「ッ!や……だからアレは――」
稔がなおも言い募ろうとしたその時…
信が額に手を当てながら盛大な溜息を吐き出し――
「ハァァ~~……もういい。…こんなの時間の無駄だ。
それよりそのケーキ食ったらさっさと家に帰れよ?親父…
俺はこれから色々とやる事があるんだから…」
「…は?何を言ってるんだ??お前は……
帰るワケないだろ。」
「…は?」
稔からの予期せぬ答に――
信は思わず呆気にとられた表情で稔の顔を見返す
すると稔は最後まで取っておいたイチゴを頬張りながら言葉を続け…
「ちなみに――後二、三日は此処に滞在するつもりだから。そのつもりで。」
「はあっ?!何言ってんだよ……駄目に決まってんだろ?!
我が儘言ってないでとっとと家に帰れよっ!
大体俺には今日……どうしてもやる事が――」
「…信。ちょっとこっちへ来い。」
「ッ……?何だよ…」
信は怪訝な顔をして席から立つと、稔の傍へと近づき…
稔がそんな信に更に指でチョイチョイともっと近づくよう促してきたので――
信が仕方なく腰を屈め、稔に顔を近づけると…
稔が信の耳元で何かを呟いた
「……、……、……。」
「………ッ!?何でその事を…っ!
おまっ、、ハッキングしたな…?!」
「フフン!ウィザードである僕を甘く見ちゃイケないよぉ~?」
「ッ、卑怯だぞ……こんな――、ッ、」
「のぼる…?…どーかした…?」
「ッ?!何でもないっ!」
「…?」
突然声を荒げた信に驚き…
葵がイチゴのチーズムースケーキを食べながら心配そうに信の様子を伺うが――
信がそんな葵に焦った様子で間髪入れずに否定を入れると
振り向きざま稔の胸倉を掴み…
グイッと自分の方に稔を引き寄せながらその耳元で言葉を続けた
「ッテメェ…もしその事を葵にバラしてみろ……ただじゃ――」
「…バラされたくなかったら――僕の要求を呑むんだね。
それと――」
稔の顔面から何時ものとぼけた笑みが消え…
代わりに鋭く尖った眼光が信を捕らえると――
静かにその口が開いた…
「親に向って『テメェ』とはなんだ……
怒るぞ…?」
「ッ…、」
久しぶりに聞いたドスの利いた稔の低い声に信はたじろぎ…
背筋に冷たいもの感じながら信は思わず言葉に詰まる…
そんな中…稔が何時ものとぼけた笑みを顔面に貼り付け…
葵の方をチラリと見ると――何事もなかったかのように話しを続けた
「安心なさい。こー見えて僕は口が堅いんだ…
要求を呑んでくれたら何も言わないよ。」
「………本当だな…?」
「勿論!――それにしても…
何でお前があんな事を熱心に調べていたのか気になっていたけど…
なるほどね~……葵君の為だったのかぁ~…納得。」
「親父…っ!」
「フフッ…大丈夫だって!誰にも言わないから!
…それにしても――アレだろ…?」
「…?」
「…お前が今日…どーしてもやりたい事って――
調べていたアレの事なんだろう…?」
「なッ!?」
ソレを聞いた瞬間…
信は湧き上がる羞恥心で耳まで赤くなりながら思わず絶句し――
稔はそんな信の様子に、益々意地の悪い笑みを浮かべる…
「おっと図星か~……
でも大丈夫!父さん、絶対に信の邪魔はしないから!
なんたって男のメンツがかかってるもんな!」
「ッ親父……、いい加減に――」
「…さてとそれじゃあ――
僕は二人の邪魔にならない様…一足先にお風呂を使わせてもらうとするかな。
ケーキ、ごちそうさま。
あ。…そーだ信。」
「何だよっ!」
「頑張れよ。」
「さっさと風呂に行けっ!」
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