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第1話

 【序章】  この世界では、ヒトと、長い(たてがみ)を持つ獣人が共存している。  彼らは仲が良いか? と訊かれれば、ノーと答えるしかないだろう。  この世を支配し、身分の高い者はみな獣人だけで、ヒトはネズミ同然に扱われているからだ。 『愚かなヒトの行いに怒った神が、優れた獣人を天から使わせた』という、宗教的な思想が、この世を強く縛りつけていた。  その中でも、ヒトとして世界で初めて王妃まで登りつめた者がいる。 「……ダメだ……ガーシュイン……こんなところで……あんっ」  大きな船の一室で、ふわふわのベッドの上に寝かされた彼は、夫である獣人に、性器を舐めたり吸われたりしていた。    彼の名はサナ・イルリーナ・セルドバルト。  旧姓、サナ・シュリアー。  セルディンティーナ王国の王妃にして、王位継承者第一位である、リンディー・イル・セルドバルト王子の生母だ。  彼は、紛れもないヒトだ。  どこからどう見ても、少年のように華奢な身体つきをした、二十二歳の美しいオメガの青年だ。  ヒトとしてこの世に生を受けた彼は、貧しい母子家庭の七人兄妹の長兄だった。  よって十二歳になるとすぐ、自ら進んで国軍に入隊した。  そうすれば多くの入隊金がもらえる上に、軍属年金も与えられるからだ。 「あんっ……ガーシュイン……っ」  ひと際感じる尿道を責められて、高い声が出た。

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