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クエスト受諾
ゲーム内で魔王退治したら、なんとゲームではなかったらしい。
魔王の最後の力で、ゲーム画面に引き込まれた俺は、魔王にぶっ殺された。
まー。代わりに俺がラストアタックいただきましたが? 最後の執念で致命傷受けながらも魔王のドロップアイテム総取りでしたが?
という記憶を今、思い出した。
イノシシのような魔物に追いかけられている今、思い出した。
「蓮っ! そのまま走れ!」
叫んで、飛び込んできた男が剣を一閃。
妖魔は真っ二つになり、ドロップアイテムを残した。
「ふう」
息をついて、ドロップアイテムを拾う。
「はい、君の戦利品♪」
そうして、ドロップアイテムを俺の手に落としてくれた格好いいおにーさんに、俺のハートは射抜かれていた。炎のような赤毛の、優しそうな、でも芯のある顔立ち。
「あの、ありがとうございます。桜火様」
「名前嫌いだからさ。名字で呼んでよ」
「炎剣様……」
桜のように、咲いて散れ、だったか。ほんと思い切った名前である。
炎剣、地鎧、水輪、風靴の四家。装備みたいな名字だが、実際、勇者が現れたら付き従うという掟があるらしい。ちなみにその装備、持ってる。
勇者って言ってもなぁ。VRMMOだったし。勇者いっぱいいたし。
引き込まれたのは俺だけだけど。
ちなみに、俺は炎剣の分家の分家の火野家の子供である。
こんな俺でも覚えてるなんて、凄い。
なお、今、俺は10歳である。
小4に戦わせるなんぞ正気か。つっても第一線で大活躍の目の前の青年も若いしなあ。魔王が悪い。すべて悪い。
俺は事後処理を済ませ、ドロップアイテムのコアを見つめる。
この思い出の品を、お守りにして返したい。迷惑だろうけど……でも……。
俺は庭の片隅で考える。
なお、俺は妾の子なので十把一絡げに雑魚寝である。そこにプライバシーなどない。
アイテムボックス……使えるな。
マイハウス……使えるな。
魔法は今までも使ってたしな。ただ、強い魔法は変身しないと駄目だ。
変身したら出来るのか。自分にびっくりである。
ひとまず、神様にお祈りしてみる。
お祈りコマンドで道筋を教えてもらえたはずだ。
そして、俺は魔王のリポップが近いことと、魔術師達の底上げを頼まれたのだった。
もちろん、お礼はある。
魔王退治のお礼として、神様へのおねがいチケットを3枚頂けた。
今回の依頼を達成すれば、その達成度によってチケットは更に7枚貰えるらしい。倍以上の大奮発である。
もちろん、受けない理由はない。
喜んで桜火様の助けとなりましょうとも!
俺は軒下に潜り、マイハウスを設置した。
マイハウスに入ると、早速コアを使ってお守りを作ろう。
俺は「うりぼー人形」にコアを詰めて、せっせと魔術を掛けた。
翌朝、朝食の為に合流すると、服が汚れていることを怒られてしまった。すまん。
当主のご子息である、桜火様に会うのは難しい。
雲の上も上の存在だからだ。
待っている間、いくつもいくつも術を掛けた。
そして、その時は訪れた。
新年の集まりの時である。たまたま、お見かけしたのだ。
「炎剣様!」
俺は、桜火様の足元に這いつくばって、ウリボー人形を捧げた。
「こ、これ! 炎剣様に、受け取っていただきたく!」
「あー。こういうの、困るから。今回だけだよ?」
「ありがとうございます!! あ、あと、これ、俺からだって内緒でお願いします」
本当に困った顔の桜火様。うう、申し訳ない。
俺はそそくさとその場を離れた。
それから、二ヶ月後。
桜火様と任務が一緒になった。肩にはウリボー人形がちょこんと乗っている。
「やあ。久しぶり。蓮」
「は、はい! 炎剣様!」
「猪突は役に立っているよ。ありがとう」
「こ、こちらこそありがとうございます!」
ニコリと笑った笑みが魅力的で、俺は一気に茹だってしまう。
背が高くて、筋肉質で、格好いいよなあ。性格まで良いなんて最高である。
「それで、図々しいお願いだけど、友達とお揃いにしたいなって……駄目、かな。報酬や材料は用意するよ」
「それは、その、ご友人と会わないと……実際作って、装備できませんでした、では申し訳ないですし」
「って事は、少なくとも目利きはしてもらえるってことかな?」
「はいっそれはもちろん! というかですね、その」
来ました! 来ましたよ、準備していてよかった。
もじもじした後、俺は勇気を出して告げた。
「もし良ければ、この後、3人で一緒に作りませんか……? あの、道具とか材料代は出してもらう事になりますけど……簡単な物なら、3時間位で出来るかな、と」
「いいね。じゃあ、さっさと片付けようか」
笑って了承する桜火様が電話で連絡すると、妖魔のコアを持って黒髪長髪の美丈夫がやってきた。炎剣様のご友人の、柳原 疾風様だ……! 依頼はあってないようなものだったということだな。あのコアはドロップしたてホヤホヤということだろう。
それはともかく、今をときめく凄腕の魔術師二人に緊張する。
「はわわわわわ」
「よろしく頼むよ。材料を聞いていい?」
「は、はい! 絶対必要なのが、魔物のコア、後はそれを込める小さなぬいぐるみがあれば……。こだわろうと思えば、いくらでも拘れるんですけど、最低でも同じ姿形のぬいぐるみがいいですね。とりあえず今日はそれで。あっ疾風様のは別にちゃんと作って贈ります!」
ということで、おもちゃ屋で小さなヌイグルミと裁縫道具をいくつか買って個室のレストランへと入った。ちょっと心配だったが、食事代とは別に場所代は払っているそうだ。
夕食をご馳走になることになり、ありがたくジュースに喉を潤す。美味い。
「では、ヌイグルミの中にコアを入れて、入れたところを縫って塞いで、術を掛けてみましょうか。その、手をお貸しいただけますか? こう、ヌイグルミを包むようにして。疾風様は、その間俺の作った手引を見ていてください」
「こう?」
手にふれる。温かい。うわあ。ドキドキする。
雑念を溢れ出させながらも、俺は手を握り、その手を通して術を使った。
「! ……」
ちょっとびっくりした後、真剣な顔になる桜火様。
10分ほどして、魔法陣が展開されて、ヌイグルミに術が掛けられる。
ハイ完成。
「……はい、次は疾風様ですね。手引を炎剣様に渡してください」
「えっ もう!? もう一度」
「疾風様の後でね」
「緊張するな……」
うっはー。疾風様の手スベスベしてる。昇天できるな。
「むー。あっ そうか……! これが手引書の5ページの魔法陣……!」
そうそう。最も基本的な魔法陣ですよ―。
「あ、食事が来た」
俺はありがたくお子様ランチを頂いた。
二人は手引を仲良く読んでいる。
食事はしないのですかね?
「食べないと持ちませんよ? あと2時間、頑張るんですよね?」
「あ、そうだね」
「なあ、これ一巻なんだけど」
「一巻だと、5分動くだけですねー。動きも悪いし。2巻が欲しい? 俺、またご飯食べたいなー」
「集ってるつもりだろうが、すげー集られてるからな、お前」
半眼で見つめてくる疾風様は、いい人なのだと思う。
「じゃあ、早いけど次のご飯約束しようか」
「あくどっ」
「やった!」
「喜んでんなよ、お前……。こんな餓鬼を騙すな、エン!」
「これぐらい、ご飯代金でいいですよ。実用性のある段階になったら、ちゃんとお金もらうし」
「ふふ。わかったよ」
「なら、まあ」
次に、試しにやってもらう。これ、2巻まで全然行けそう。
二人の物覚えが良かったので、俺は2巻を用意した。
1巻がコアに掛ける術なら、2巻はヌイグルミへの小細工だ。
魔力に馴染ませたり、そもそも馴染む素材を選んだり。
「2冊とも貸すけど、返してくださいね? あと、魔法陣の書かれたページで本に魔力を通してみてください」
すると、本の上に立体魔法陣が浮かび上がった。
「次会う時は、俺にヌイグルミ一つ欲しいなあ」
ニコリと笑うと、コクコクと二人は頷いた。
「宿題だね。これ、他の人に見せてもいいかな? 4月から受け持つ生徒にも教えてあげたいし」
「おい、エン」
「俺からだってバレなければ好きにしていいです……と言いたいところだけど、完成品をばらまくのはともかく、作り方を広めるのはせめてある程度出来るようになってからにしてください。俺、今の所、炎剣様以外に教える気、ないですから」
「なぜ?」
「さあ、何ででしょう?」
今世で、初めてオレ個人に物をくれたのが炎剣様だからに決まっている。あとイケメン。
「ま、いいか」
頭をなでてくれる桜火様。もっと撫でてくれてもいいんですよ!
「犯罪臭がする……」
黙って下さい。
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