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第13話

 なかは篠山がなにもせずとも濡れて柔らかくなっており、添えるくらいにペニスをあてがっただけで、先端がずるっとめりこんでいった。 「あああっ」  四つん這いになった細い腰を掴んで後ろから押しこむと、彼は背中を反らして前へと逃げていく。結局はいつものように胸をぺたっとシーツに押しつけ、尻だけを突きだす体勢になった神野に、小刻みにずんすんと突き立てていった。 「ああん、ああん、……んぁっ」  篠山は本当なら相手の顔を見ながらするのが好きだ。穿つのに合わせて表情がどう変化するか。それで相手が気持ちよくなれているかを判断して、攻めていく。抱いた男をどれだけ悦ばせられるかは、自分の悦楽にもつながる。  神野を抱くときだって、おおかたは正上位だ。彼は顔を隠そうとしない。うつくしい顔が快楽に歪むさまは、とても情欲を煽った。寄せられる眉も、咬みしめられて(たわ)む唇も、そしてそれが徐々に赤く色づいていくのも好きだ。  彼をこの道にはめてはいけないとずっと遠慮してきた時期があったが、恋人として抱きあうようになったいいまでは、唾液でてらっと光るそれに我慢せずによくなった。思う存分むしゃぶりつくことができるのだ。  今夜もできれば正面から抱き合いたかったのだが、なさけなくも篠山にはもう彼の脚を抱えて腰を振る気力がない。しかも一発終わってしまえば、そのまま睡魔に襲われダウンしそうだ。 「ああん、ああ……ああんっ」  たいして神野は今夜も絶好調で、気持ちよさそうに背を反らしては、断続的にぶるぶるぶるっと身を震わせている。 「あんっ、……いいっ……いいですっ」  褒められて、余計に罪悪感が増してしまう。 (でも悪い、俺はもう限界だ……)     挿れるまえに神野のものを一発、いや二発ほど抜いておけばよかったのだが、後悔先に立たずだ。ちょっと考えればわかることだったのに、はやくはやくと目で訴える彼が、熱く吐息を漏らして唇を舐めるのを見てしまえば、もうだめで。篠山はさっさと彼のなかに屹立を(うず)めてしまっていた。 (やばい。これすぐイってしまいそう)  久しぶりの交接に、挿れてまもないうちから篠山のペニスのさきは蕩け落ちてしまいそうだった。  そこへ神野の素直に悦楽に酔う媚態に煽られ、そして彼の粘膜に呑み下すようしてペニスを絞られる。限界はもう、はやくもそこに訪れてきていて。 「やっ。だめっ。だめですぅっ」  いちど果ててしまえば二度目はもう無理だと、自分の体調をわかっていた篠山は、ならばも諸共(もろとも)と神野の腹に手をまわして、彼のそそり立つものに手を添えた。 「いやっ、でちゃうっ、触らないでっ、やめてくださいっ」 「だめ。祐樹、今日はもうイって」 「あっ、やっ、あああっ」    神野の下腹部のあたり。尻を突きだしていて僅かにあいたシーツとの隙間で、ペニスを握りこもうとする手と、それを引き剥がそうとする手が小競り合う。自分だけがひとり彼のなかでイって神野をひとり残してはマナー違反だと思ってのことなのに、理性を失っている神野にはそれが通じない。 「いやっ、いやっ、やめてやめてやめてっ」  篠山はすこしでも長く、そしておそらく数多くセックスの快感に溺れていたい貪欲な情人の、びしょびしょに濡れたカリを(いじ)りながら、隙穴のなか、彼にとってのいいところを狙って思い切りこすりあげた。 「いいからイけって」 「あああああああっ!」  べしゃっと飛びだした白濁を手のひらで受けとめながら、「ふ、うっ」と息を詰めて彼の熱い体内で吐きだした。はぁはぁとふたりで吐く荒い息が暫く暗い寝室につづく。  手首のうえがひりひりと痛むのは、やっきになって自分のものから手を引き剥がそうとした神野に、ひっかかれたからだ。 (なんつーヤツだ……) 「悪い。今日はもう限界。おしまい」  まだ断続的にびくびく痙攣する神野の身体をひっくり返し、こちらを向けると布団を剥ぐ。目は口ほどに物を云うというが、強引に吐精させられ行為を終わらされた神野の不服そうなこと。篠山はティッシュで汚れた手を拭ってきれいにしたあと、詫びの気持ちをこめて彼に口づけた。 「ごめんな」  舌を絡めると、従順に吸いかえしてくる。唇を離すときにはちうっと音がたった。 「そんな顔するなよ、な?」 「べつに、普通です。それよりもはやく寝てください」 「ん、悪いな」  やさしい声で云ってくれた恋人に甘えさせてもらって、篠山はさっさと始末を終えるとまだ情欲の名残に震える細い肢体を抱きしめて、眠りについたのだ。  しかしそれが取りかえしがたい失敗だったのだと知ったのは、翌朝のことだった。  目覚ましが鳴るよりはやく、腕のなかから神野が抜け出ていった気配で目が覚めた篠山は、上にトレーナを着て下はパンツだけを穿いた神野が、ゴミ箱のまえでしゃがみこんでいることに気づいた。 「祐樹、お前……、なにしてるんだ……?」  声をかけられた彼がさっとゴミ箱のなかに押しこんで隠したのは、そこに捨ててあった使用済みの避妊具だった。 「なにも、してません」 「嘘云うなよ……」  まじまじと神野を見つめると、彼は気まずそうに顔をそらした。 「気になったことがあったので、ちょっと確認していただけです」

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