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第24話

                * 「ああああんっ」  もどかし気に首を振る神野の髪がシーツに広がる。いやっ、いやっ、気持ちいいと、熱に浮かされたように繰り返しているが、きっと本人はもうなにを口にしているかだなんて自覚していないのだろう。  家につくなり用意されていた風呂にふたりしてはいった。そこで一戦交えたこの身体は、場所をベッドに移しすまえにはもうとろとろになっていた。  じつは風呂場でなんてセックスはしたくない。篠山は硬い壁や床で抱き合うことを好まなかった。しかし下肢を洗浄したさいにすっかり興奮してしまった神野が、挿しこんだ指を抜くのを嫌がったのだ。それでしかたなく前立腺マッサージでいちど抜いてやったのだ。だが樹脂材の壁に派手に白濁を撒きちらした神野に、そのあとも腰を振ってぐずられた。  普段は遠慮ばかりの恋人は、セックスになると途端に我儘になる。ベッドまで待てと云っても「いますぐがいいですっ」と神経質に叫ばれ、仕方なく彼とは初の立ったままのセックスに挑んだ。  はじめてホテルの浴室の壁に彼を押しつけて、尻を洗ったときにはおおいに抵抗されたうえに失神されてしまったというのに、人間四か月でこうも変わるものなのだろうか。  シチュエーションがよかったのか、欲求不満だったのか、背後から突くたびに神野はよがりまくってあっというまにペニスをどろどろに濡らしていった。さきに篠山が射精してしまうと、くぅ、くぅと切羽詰まった息の詰めかたをしてまた壁を汚していた。  膝から崩れ落ちた神野はどうにかしたのではないかというくらいに恍惚になっていて。篠山はなにを云ってもまともに耳にはいっていない様子の彼の身体を清めると、一週間の疲れを溜めこんだ肉体に鞭を打って彼をベッドに運んだのだ。  担ぎ上げていた肩からシーツのうえに転がすなり、神野はやくとでもいうようにすぐに自らおおきく足を割りひらいた。  本音を云うと、そのまま彼には寝てほしかった。しかしベッドに仰向けになって脚を開かれてしまえば篠山には拒否権なんてものはない。風呂場での余韻に背筋を波打たせ、あん、あんちいさく鳴きつづける彼のまえに膝をつくと、尻の(あわい)に自身のペニスを押しこんだのだ。  これだけ疲れていても案外自分もイケるもんだな、とまんざらでもなかったのだが……。  そしてほぼイきっぱなし状態の神野はそう時間をかけなくても、三度目の吐精を果した。あとを追うようにして自分もいっしょに射精()してしまう。  「はぁ、はぁ、……はあぁっ」  解放を終えすっきりした篠山とは違い、神野の肉体にはまだ官能の波に身体が騒いでいる。こうなったら暫くは自分は必要ない。最近ではこんなときの彼に下手に触ると怒られてしまう。自身を抜くことすら叶わない。 「んんんーっ。……あっ、あっ……ああっ……」  釣りあげたばかりの魚のようにびくびく跳ねた身体からぬるんと篠山のペニスが飛びだした。それを機に身体を離して彼のとなりに横たわった。 「あっつーっ」  冷たいシーツに火照った身体を擦りつけ、熱を冷まし汗を吸わせる。 「つ、疲れたーっ」  このまま寝てしまいたいが、今日こそ話をつけなければならない。 (こいつが落ちついたら話を切りだそう)  とりあえずは自分の後始末をつけようと、篠山は避妊具を取り外して口を縛るとティッシュにくるんでゴミ箱にぽいっと投げ捨てた。  そこで先週、彼がゴミ箱を漁っていたことを思いだし戦慄する。 (だ、大丈夫だよな。満足してくれたよな?)  今夜はしっかり期待にこたえ、精力的に恋人としての役割をはたしたはずだ。まじまじと白い姿態を観察していると、漸く彼の身体も落ち着いてきたようで、神野はおとなしくなっていった。  そうっと手を伸ばして後ろ髪に触れる。普段さらさらしている髪は洗髪の名残でまだ湿っていて、きゅっと指に絡む。 「祐樹、落ちついたか?」  背中に声をかけると、彼は身を返してごそごそとこちらに摺り寄ってきた。そして篠山の腕のなかにすっぽりとおさまる。 (まだまだかわいいな)  年下の恋人に愛しさが湧きあがってくる。 「祐樹」  ぎゅっと抱きしめて額に口づけた。 「すこし話をしよう?」  ごそりと動いた神野が見上げてくる。 「話、ですか? さっきの春臣くんとのことならもういいです。家に帰ったら三度目がないように春臣くんと話あいますから」 「そうなのか?」 「はい」 (それでいいんだ?)  篠山にはなんのことだかさっぱりわからないが、どうやらお鉢は春臣にまわるようだ。今ごろくしゃみのひとつでもしているだろう、春臣の顔を浮かべて篠山は、すまないと心のなかで詫びておいた。 「じゃあ、遼太郎のことだけど……」 「それも、いいです」 「へ? でも、」 「それよりも――」  腕をあげて首に巻きつけてきた神野が、尖った乳首を篠山の胸に(なす)りつけ「あん」と喘ぐ。 「おい……」 「篠山さん……」  艶めかしい吐息が首にかかった。同時に絡められる脚は執拗で、腹を濡らしたのは彼のゆるく勃起したペニスから新しく排出されてきた体液だ。 (お、おいおい……、ちょっと待ってくれ……) 「ゆ、ゆうき⁉」 「次は――」  もういちどすることが前提で口を開いた神野に篠山は蒼くなる。対して彼は全身を朱に染めて篠山の胸に顔を埋めて隠してしまった。 「あの……」  云い淀む彼のつむじを、ここでいまさらいったいなに恥じらうのか、と目をぱちくりとして見つめていた篠山は、 「……コンドームなしでしたいです」  そうつけられた注文で、シーツの海に撃沈した。  

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