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第8話
「んっ……」
苦しいくらいのキスをされながら、スウェットと下着をまとめてずり下ろされると、ぷるんとペニスが飛びだした。開放感にほっとしたのもつかの間で、すぐにそれは篠山に握りこまれてしまう。
じわんと快感が波打つように身体の隅々まで伝わって、「あん」と喘いで顎をのけ反らせた。既にそれはべとべとで、彼の手でじかに擦りあげられると体液のぬめりとの相乗効果でおかしくなってしまいそうなほど、気持ちいい。ペニスからさき、腰も腹も熔けてしまいそうだった。
それに伴い息づくようにして、いまや彼を迎えるための性器と成り果てた最奥 の入り口が収縮し、そこから続く器官も疼きを慰めて欲しいとせつなく蠢動しはじめる。
(気持ちいいっ、はやく挿れて、はやく――)
「んんっ、んんっ、――っ」
淫らに腰が揺れてしまうのを止めたいのに止めることができず、神野は羞恥に肌を染めながら「いや、いや、」と口の中で繰りかえしたが、篠山はその声すら呑みこむようにして、なんども角度を変えたキスをしてきた。
「篠山さん、好き……っ、だからっ」
(はやく挿れて! 埋めてぇっ――)
「ん、すぐしてやるな」
「ぅんっ」
抱き寄せられるままに彼にぴたっと身体をひっつける。腰に添えられた彼の左手が今度は後頭部にまわってきて、そこにそっと力が加えられると神野はそのまま彼の左の首ったまに、もどかし気に額 を擦 りつけた。
痛いくらいにペニスが張りつめ、自覚したくはないが恥ずかしいくらいにその奥の穴がひくひくとしているのだ。貪欲に刺激を求めて、先走りの酷いペニスを彼に擦りつけそうになってしまうのを歯を噛みしめて堪えた。
はやくして、いったいいまはなんの時間なんだと、僅か五秒にも満たない時間に苛ついた神野は、篠山が机の引き出しの開ける音を聞き逃さなかった。
ここは遼太郎の机だ。さっき一瞬、篠山はこの部屋でも遼太郎と抱きあったのかもしれないと勘ぐってしまったが、仕事場なのに罪悪感もなく、むしろ慣れたふうにセックスに及ぼうとする篠山の態度に、その邪推はとっくに「絶対やっていた!」と確信に変わっている。
網膜に焼きついてしまっている客間のベッドのなかでの彼らの情事を、この部屋の、この机での行為に置き換えて何度も思い返してしまい、重苦しかったのだ。
激しく抱き合う彼らに悲憤しつつも、それでも猥 りがわしい自分の肉体は与えられる快楽が優位で――。ならばいっそのこと、ちらちらと浮かんでしまうその想像を上書きするくらいに、今夜は篠山にめちゃくちゃにされようと望んだ。
ピリッと包装の破ける音がして、背後にまわった彼の長い指で尻たぶをわけられる。篠山にぎゅっと抱きついたままドキドキしながら全神経をそこに集中すると、期待にペニスがさらに膨らむ。
「くふんっ」
窄まりをくるりと撫でられて鼻にかかった声がでた。チュッとこめかみにキスされて、腹が波うった。ペニスのさきからじわっと体液が滲みでる。
「いい子だな」
はやくはやくと急きながら、うんうんと彼の首筋に額を擦りつける。お互い興奮して上がった体温のせいで、彼の肌の匂いと、彼の衣類からはたばこの香りがたちあがった。それだけで射精してしまいそうになって、びくびくっと腰を震わす。
しかしいざ指が入ってきそうになったとき、神野ははっと我に返った。
「待ってくださいっ!」
そして慌てて彼の手を払うと、その腕のなかから飛びだした。
「どうしたんだ、いきなり⁉」
ホールドアップの姿勢の篠山が、目を丸くしている。
「ごめんなさい。でも、あのっ、今日、帰るつもりだったんで、中、洗ってなかったんです」
「あぁ。なんだ。――まぁ、そのままでもよかったんだけど、一応、ほら、ゴムしてる」
そう云いつつ腕を下ろした篠山の右手を見ると、いつのまにやら指に避妊具が装着されていて……。あれ? いつの間にと神野は首を傾げた。
「それ、どこにあったんですか?」
訊いてはならない気がするが、訊かずにおれないという複雑な心境のまま問うてみる。そして悪い予感は当たった。
篠山は「あー……」と口ごもると、云いづらかったのか、しぶしぶといった感じで机の一番上の引きだしを指さした。
「……………………」
つまり、それは遼太郎のもので。篠山は遼太郎と使っていた避妊具を、自分に使おうとしたわけだ。
(やっぱり、ここでもふたりでいっぱい愛しあったんだ……)
「だ、だめだったか……?」
(駄目でしょう)
神野の瞳が翳り、眉間に皺が寄った。つうんと鼻の奥が痛くなる。
「そりゃ、駄目だよな……。悪い」
情けないがくやしくて目頭にすこし涙が滲んだ。ぎゅっと目を瞑りそうになった。でもそんなことをしたら涙が落ちてしまうかもしれないので、唇を咬んでなんとか堪える。
「………………‥っく、」
近づいた篠山の手のひらが顔に添えられた。親指でやさしく目じりを拭われるとほだされそうになったが、それではまたいつまでも自分がくすぶり続けることがもうわかっている。ちゃんと気持ちを伝えないと。それが彼との約束だ。
「だから! そういうの! ひどいですっ!」
抱きしめられると、それでいいんだよと後押しされたようで、さらに感情がぶわっと溢れだした。
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