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平凡なオレがAVを鑑賞してみた その三
慌ててコクリと頷くと、蘇芳はほっと安堵したように静かに笑みを浮かべた。ちょろい。ちょろすぎるぞ、自分。顔から火が出るほど恥ずかしい。いいのか、これで付き合うという契約が口頭で交わしてしまったぞ。クーリングオフは一週間後にできるが、あとでやっぱりレシートなしでもできますか〜? なんて、いや、できない。あ、気持ちいい。だめ、蘇芳、そこ、ヤバイ。
錯綜する煩悩をよそに蘇芳はまた一つキスを頬に落とした。
「うれしい。ああ、そうだ。汚してはいけないからゴムをつけよう」
後ろにあった鞄へ手を伸ばし、蘇芳はラテックス製のゴムを取り出した。ピッと歯で噛み切って、封が切れるとオレのミラクル棒にしゅるしゅると蓋をかぶせていく。
「宮城、きょうは手だけにしよう。君が乱れている姿を誰一人見られたくない」
「え、あっ!」
蘇芳がシャツのなかへ冷たい手を忍ばせると、丸く平べったい部分を指でなぞった。
「……? これ、なに?」
「……ニップルだよ」
「ニップル?」
「……その、蘇芳が何度も舐めて齧るからシャツでこすれて痛くて、ママゾンで買ったんだよ」
えっと小声で驚いた声をこぼすと、蘇芳は首筋に唇をあてた。
「なにそれ、かわいい」
「ばっ! かわいくねぇよ。蒸れるし、ギュッと念入りに乳首をおさえながら貼りつけてもクッキリ浮かび上がってアヤメにも馬鹿にされるし……」
「菖蒲くんにこれ、見せたの?」
アヤメの名をだすやいなや、蘇芳はニップルへ爪を立てた。カリッとした疼痛 が胸からびりびりと電流のように走り、オレは慌てて取り繕う。
「トイレ行ったときに、見つけ、んっ、られて……っ」
「ダメだよ。もう見せないで。……こんなの誘っているとしか思われない。宮城は隙があり過ぎる。きみを菖蒲くんに取られたくない」
「……あ、あ、す、蘇芳、アヤメはともだち……んっ……」
「ほんと? それならいいんだ」
ニップル越しに乳首をコリコリと愛撫され、空いた手で先走りのぬるついた竿を包んでゆるゆると扱かれる。後ろから支えるように抱きすくめられ、ノーハンドで刺激を刻んでいく。内股はひらかれて、桜貝のような爪がそろう手のひらが動いて、中心部にあるミラクル棒は目も当てられない。ニチャニチャとこすれた水音がAVに合わせて響いて、脳天を突き上げるほどの悦楽が押し寄せた。そして深い快感に沈んで浸ってしまう。
「だめっ、いく、すおう、いっちゃう……」
「声、ださないで。聴かれたくない」
「あ、んっ」
貪るように後ろから舌を絡めて、唾液ごと吸われ強弱をつけながら握られ、卑猥な汁が噴き溢れるように出される。語尾がハートになるのを堪えた。
べとべとと濡れそぼる温かい手のひらと、もどかしい胸への前戯が体を熱くさせ、このまま欲しいと体の奥がひくついてたまらない。
「だしていいよ」
「んんっ……、すおう、やめっ」
「やめない。これはお仕置きだからね?」
「ん、あ、あっ、やぁ」
「かわいい」
柔らかな唇で深い口づけを交わし、オレはいとも簡単にやすやすと白濁とした液を放ってしまった。
え、おれ、こんなに早漏だった? というぐらいすぐに絶頂へと達してしまった。
まぁ、起こりますよね。賢者タイム。ぐったりとしたオレははっとして、慌ててゴムを外そうとしたが蘇芳が手慣れた手つきで取ってくれた。
振り向くと蘇芳はくるりと結び目をつけて、ぷるんと先っちょが膨らんだゴムを誇らしげに眺めている。
「高橋君のごみ箱に捨てられないから、僕が持っておくね。宮城、疲れたでしょ? そろそろ帰ろうっか? あ、窓開けとくね?」
「う、うん……」
カラカラと音を鳴らして、蘇芳が引き戸を開けるとむくりとでかい獣が身体を起こした。
「……っ、おまえら、まだいたのかよ?」
キングゴリラが唸りを上げたような遠吠えにオレは目を丸くしてベットへ視線を注ぐ。菖蒲が起きている。驚いた。いま、起きたのか。ゲイビも終盤を終えて解散をしてノイズが流れていた。
「……アヤメ起きたのかよ」
「つうか、さむっ! ポチ、おまえ勝手に窓開けるなよ!」
「わ、わりぃ。閉めとくわ」
「いいよ。僕がやるから。あ、僕たちふたり、そろそろ帰るから、高橋くんによろしくね?」
そう口にして、蘇芳は窓をぴしゃりと閉め、傍らに立ったオレの手を握ってきた。長くて白魚のような指先がぎゅっとオレの指に絡んできて、菖蒲に見せつけているようにも感じた。
「そ、そういうことだから。じゃあな」
「あ、まて! くそ!」
「菖蒲くん、宮城にこれ以上ちょっかいを出さないでね? 宮城は僕の親友で恋人なんだから」
にっこりと蘇芳は笑みを浮かべて、オレたちはその場をあとにした。
◆
高橋邸を出るやいなや、オレは声を荒げるように怒鳴って蘇芳の腕を振り払った。
「いや! おわってねぇから!」
「そうだね、今度デートしよっか。水族館がいい? 美術館がいい?」
「……」
「じゃあ、中途半端な終わり方だし、もの足りないから僕の家に行こう? だめ?」
にっこりと穏やかに完璧な微笑みを浮かべられると、断れないのを自分は知っている。どうやらオレは大変な恋人を手に入れてしまったようだ。
「……っ、わかったよ」
「うん、そういうところも好きだよ」
満面の笑みで、人目もはばからず路上でキスされた。
それはそれは溶けた角砂糖のような甘い口づけだった。
ちなみにだが、この数日後、蘇芳がオレの部屋を訪れ、隠しておいた精子つきパンツを見つけた。絶頂まで導かれて、お互いに新しい扉をひらいたのは言うまでもない。
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