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平凡なオレがAVを鑑賞してみた その二

 というのが、一時間前のこと。  そしてなぜか、いま、四人でAVを見ている。菖蒲、高橋、オレ、蘇芳。そう、なぜか学園一の王子がいる。『ぼくも一緒にいいかな?』なんて、恵比寿の洒落たランチでも誘うようなセリフをオレに声をかけてきたのだ。  ちらりと横目で蘇芳をみた。相変わらず整ったパーフェクトジェントルメン。すっと伸びた鼻梁に、深い青が沈んだような紺碧色の瞳。ゴリラのような菖蒲とはちがい、静寂さと気品に満ち溢れている。 「……なんか、二人とも寝ちゃったね」 「うん、二人ともアホだからな」  横目で空になった空き缶とつまみらしき柿ピーに視線を泳がせる。  あろうことか高橋と菖蒲は冷蔵庫に入っていた酒類を開けて、映画鑑賞のような面持ちでAVを見ていた。高橋が目を凝らして食い入るよう眺めていたが、酔いが回って早々と寝てしまい、菖蒲も飽きたのか高橋の隣でいびきをかいている。  ちなみにオレは飲むと酒乱になって記憶をなくすことがあるので、十七茶を飲みながら、いい加減な言い訳で断ろうとすると菖蒲が茶々をいれた。それからだ。蘇芳は口数が少なくなり、奴らが眠ってから無言のままAV鑑賞を酸化していく胃をかかえながら観ていた。 「……」 「どした? 蘇芳? もう帰る?」  ちゅっと軽やかな音を立てて、濡れてつやつやと鮮やかに光る唇がぶつかる。 「え?」 「宮城、しよ?」 「は?」  突然だった。体がぐらりと傾いて、背中をどんと押し倒されてしまった。ここは高橋邸。和風の小ざっぱりした一軒家に住む、アホ橋は共働きの両親をもって留守を預かっている。姉は彼氏の家に入り浸りなので、いま家のなかは四人しかおらず、起きているのはオレたちしかいない。 「我慢できない。僕たち付き合っているんだよね?」 「え? 蘇芳? 付き合ってないよ?」 「……どうして? 宮城と僕は恋人だよ? 一緒に帰ろうと思ったのに、もう浮気するの?」  理解が追いつかない。付き合っている? 浮気? ドウイウコト? 「まてまてまてまて。蘇芳、オレたち友達だよ、な?」  BGMは『お下劣でGOGOバイブ音』。ランキング上位のゲイビだ。Twatterの応募特典で男優の精子つきパンツが送付されることで有名だ。同じものを持っている。つまり、オレの部屋のベッド下の右奥に精子つきパンツがジップロックとともに隠されている。そんなのどうでもいい情報だ。とにかく、卑猥な音が部屋へ鳴動を轟かせて、男の濁点喘ぎが蘇芳とオレの耳朶(じだ)を撫でていた。  そのせいか、オレの声は小さくなり、視線はおどおどと弱弱しい。 「友達なの?」 「そう、じゃないの? だって、蘇芳付き合おうなんていってないじゃん」 「付き合おう」  なにその即答。ラーメンと餃子で有名なワン将のバイト並みの速さじゃん。 「は?」  ムードもへったくれもない蘇芳の返答。それなのに満足したように、ゆっくりと薄い桜色の唇を重ねられる。まって、まてまてまて。 「好きだって伝えたよね?」 「あれは、幽霊だろ? 除霊だろ?」 「……ちがうよ、全部僕だよ」 「は?」  蘇芳は真っ赤になりながら、ぎゅうと力強くオレを抱きしめた。 「宮城と仲良くなりたいから、高橋くんにお願いしたんだ。そしたら、なぜかこっくりしようぜって言われちゃってさ」 「うん……、それで?」  ごめんな、アホな友達で。全然解決策になってない。意味不明だし、本当に申し訳ない。高橋はどうやってこの私立高校に入学したんだろう。あ、うん、いま考えるやつじゃないな。ごめん、蘇芳。 「それで、宮城が僕の好きなコを当てようとするのがかわいすぎて、つい……」 「つい?」 「魔がさしちゃって。……でも、好きだったんだ。小学校から」 「小学校?」 「うん、僕、昔女の子みたいって、よくいじめられていたんだけど、覚えているかな?」  首を横に振った。蘇芳の瞳が深く沈んだような気がした。寂しげに長い睫毛が伏せて、肩を落としている。 「で、でも……、いまは……」 「いまは?」  好きだ。顔が。いや、ちんぽも。ちがう、穏やかな性格含めて好きだ。 「す、す、す……き」 「本当?」  うんうんと、上下に首を縦に動かす。蘇芳の白土のように沈んだ頬が、太陽が昇ったように明るい血色へ戻った。 「……よかった。宮城の同級生からアルバムと宮城のお義父さんの会社を調べて、僕の叔父さんの関連会社で働いているってわかったから叔父さんにお願いして、転勤の指令を出してもらったんだ。あと、学園の理事長が祖父だから、そこはかとなく転校できるようにって手配もして……。あっ! もちろん、無理な辞令だったから、家賃も全部負担するようにしているし、学費も心配しなくていいようにしているから安心してね。お金のことはすべて僕が責任もって迷惑かけないようにしているから。それとママゾンで宮城に似たようなレビューがあって、調べたら宮城っぽいレビューをたくさん見つけちゃってずっと購入物と感想をメモして読んで追っていたんだ。名前がフルネームの『宮城のイチロー』だったから、まさかなって思ってさ……。でもバナナのペンとか、バナナのペンケースとか購入したら、次の日すぐに学校に持ってくるし……、その、お、大人の玩具もレビューにあって、宮城なのかなって……ちがうかな?」  ね? と、アメリカ大統領のスピーチあとの自信満々の笑みを落とす。  息つぎなしのセリフを蘇芳は安堵まじりにペラペラと透き通ったヒヨドリの鳴き声のように心地よい音で響かせる。そして静謐な微笑みを唇に浮かべたが、オレは凍りついたように身動き一つできなかった。  え?  まって。どんだけバナナ好きなのバレてるんですか、オレ。 「そ……なんだ」  自分のネーミングセンスとネットリテラシーのあやうさに呪いをかけたい。 「これで、晴れて両想いだね」 「だっ……! だめだって……、まって、蘇芳、頭が追いつかない。オレたちは友達。オーケー?」 「宮城、答えはノーだよ。僕たちは恋人同士だよ?」  だよ……と言い終えるうちにまた唇を重ねられる。まったく聞く耳を持たない強引さを感じた。 「……んっ、ぁ……」 「好きだよ」  ちゅくりと舌を絡ませて、唾液が舌のうらから溢れていく。長い舌先が歯裏を押し当てて、蛇のように蹂躙されて口腔をじっとりと湿らせた。  やばい、やばい奴だ。  蘇芳、おまえ、もしかしたら、とんでもなくヤバイあたおかな地雷なんじゃないだろうか。と混乱した頭で蘇芳の顔面に視線を戻した。ああ、顔がいい。いわんやイケボプリンスならなおさらだ。睫毛は密生して、濡れた瞳がオレを捉えて離さない。顔がよい奴はどうしてこうも聖人のような佇まいを兼ね備えるのだろう。本人も良いことをしたと自負している表情をしている。一ミクロンたりともストーカーだとは思っていない。 「……っ、だぁ、め」 「宮城かわいい。下、つらそうだね。だそうか?」 「や、や、あっ……」  するりと下着に手を伸ばされて、頭をもたげたものを取り上げて外気が触れた。弾けるように硬くなった屹立を包むように握られ、他のヤツならここで殴り殺しているが、どちゃしこ好みの顔面を目の前に拳の威力も地に落ちる。  冷たい手のひらがひんやりと気持ちよくて、気を確かに持つことすら困難を極めていた。 「スキ、宮城、すきだよ。ね、宮城も僕のこと好き?」 「はぁ、あっ、あ、あ……」  ゆっくりと強弱をつけながら、上下に敏感でうすい皮を伸ばし、そしてリズミカルに引っ張られ微弱な快感が花びらのように散る。耳たぶを噛まれ、吸いつくようなキスを首筋に落とされた。 「だめ? だめなら、二人に見てもらう?」  ぐりぐりと鈴穴の割れ目をねばつく指先であやされ、膨らみに爪を立てられるとじわりと痛みが走った。尻たぶの間から蘇芳の剛直したものが布越しに熱く鼓動している。  はぁ、ヤバイ。飴とムチじゃん。なんなん、この声。最の高でご馳走様的な? 背徳感もやばって……! って、て、アヤメたちがいるじゃんか! 「……っ、や、お、起こさないで」 「じゃあ、僕と付き合ってくれる?」

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