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第9話           END

「洗うの平気だった? 怖くなかったのか?」 「…………そ、そんなことを知りたいの?」  イアンのとんでもない質問に、たちまち宝は覚醒したようだ。真っ赤になって目をさ迷わせはじめた彼の両手を握ると、イアンは「ああ、知りたい。教えて」と耳のなかに直接言葉を送りこんだ。 「……も、めちゃくちゃ怖かった、よ?」  消え入りそうな声で白状する宝に、さらに追い打ちをかけてみる。 「どういうふうに怖かったの? どうやってやったの?」 「ひえっ、そ、そんなの恥ずかしくって云えないって」 「手は前からまわした? それとも後ろから?」 「うぅ……、そんなの、なんで訊くの?」 「宝にすごく興奮したいから」  いわゆる初言葉攻めと云うやつだ。間近からじっと見つめると、暫くして宝は恥ずかしそうにそっと目を閉じて云った。 「…………ま、まえから……」 「こんど見せてくれる?」  ぱちりとまた目が開く。 「へ? だ、だめっ。まだ上手にできないと思うし、時間かかるし……」 「手伝ってやる」 「そ、それもだめっ」 「なんで? ふたりで愛しあうために必要な行為なんだから、準備もふたりですればいいじゃないか? そんなに恥ずかしいことか?」 「恥ずかしいけど、そ、それよりも汚いから、ダメ。絶対ダメ」  宝は首をぶんぶんと横に振った。  でも、こう云えばどうだろう? 彼には絶対に効果があるはずだ。 「俺は、したい」  すると思った通り、 「…………うん」  宝はこくんと頷いた。ああ、もうかわいい。今度なんかを待っていられないじゃないか。 「そうだ、今から見せてくれ」 「え⁉」  イアンは布団をはぐと宝を抱き上げて、シャワールームに向かって歩きだした。 「えっ、えっ、ええっぇぇっ⁉」  腕のなかで「ダメ、まだだめぇぇぇっ」と絶叫している宝だったが、でもきっと自分がどうしてもとお願いすれば、彼はしぶしぶであっても応じてくれるのだろう。  その証拠にいまも宝の腕はしっかり自分の首にまわされていて、離れていきそうにない。 「こ、心の準備ができていないよぉーっ」 「大丈夫だ、宝。俺が教えてやるし、手伝ってやるっていっただろ?」 「無理無理無理っ、もっとうまくできるようになってからだって!」  扉を開けてシャワールームで下ろした宝は、真っ赤な顔で「ふぅふぅ」息を切らして見上げてきた。それでもまったく逃げる気はないらしい彼に、イアンはついに噴きだした。  より多く愛しているつもりが、もしかして愛されされている()のほうが、おおきいのかもしれないなと思えば、なにやらふくふくとした甘い気持ちに包まれていく。 「イアン?」  イチゴのように赤く染まった宝の頬はとても甘そうだ。イアンは微笑みを浮かべると、首を傾げている愛しい存在を味わうべく、唇を落としていった。「俺も負けないくらい愛しているよ」と囁きながら。                  END

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