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第8話
「ああん、ああん、んぁあっ」
「宝、いいみたいだな。この体位気に入った?」
「んっ。気持ちいいっ。けど、……イアンはっ? ああん、イアンはっ、ど…‥?」
「ああ、気持ちいいよ。さきっぽが蕩けそうだ」
「そ? よかった。ふぅうんっ……あん……」
「宝、さっきの話に戻るけど、宝はちゃんと俺のことを上手に愛してくれているよ」
「……ほ、ほん…‥と……? 俺、ちゃんと……できてっ、 あっ、いい、んあああっ、イアンっ、気持ちいいよぉ」
「ああ。……俺がよろこぶようにずっと考えてくれているんだろ? ……宝はちゃんと声も隠さないで聞かせてくれるから、俺はとても気持ちよくなれる。それにキスも熱烈で興奮するよ」
「……そ、そう? なら、よかった……」
顔は見えなかったが、よかったという宝の声はうれしそうだった。
「宝、キスしたい」
腰を突きながら試しに云ってみると、宝は懸命に上半身を捻りこちらに顔を向けてくる。顎を突き出してくる宝に、動きを止めて覆いかぶさると、イアンは噛みつくようなキスをした。
「ふっ…………、んっあっ……はんっ……」
つまりだ。宝は自分に抗って嫌われることを怖れてもいなければ、ましてや遠慮なんかもしていなかったのだ。
ただ宝は彼なりに自分に与えようと必死だったというだけだった。彼の想いを知って、イアンはますます彼への愛情が深くなってゆくのを感じる。それを示したくて彼と交わす口づけをいっそう深いものにした。
「飲んで」
キスの間 にそう云うと、宝はぶるるんと身体を震わせた。溢れてくるふたりぶんの唾液を、彼の喉の奥に舌で押しこむようにする。宝はなんどか失敗したあと、なんとかそれをコクリと嚥下して、つぎの瞬間には射精していた。
「ひっ、ごほっごほっ、はぁ、はっ、けほっ」
「――つっ」
宝に無理を強いたイアンは、バチが当たったのか、咳こんだ宝にペニスを締めつけられて、痛みで顔を歪めるはめになった。
「ご、ごめっ」
「大丈夫。それよりも、こっち。もう少しだから、動くぞ?」
「うん」
彼の息が落ちつくのをまってから声をかけると、なんと宝は自らうつ伏せの姿に戻って、おとなしく尻を突きだした。
(――うっ)
このあと、多少イアンが無茶な腰の振りかたをしてしまったのは仕方のないことだっただろう。ペニスを扱かれながら強く揺すぶられた宝の、今夜四度目になった放埓 は、イアンとほぼおなじタイミングだったが、その吐き出された液体は、ほんの少量の色さえもないさらさらとしたものだった。
自分の腕を枕にしてぐったり目を瞑る宝の肩を撫でながら、イアンは天井を見上げていた。
夜も深いので天井にある光源は暗めにしているが、この部屋では床にある魔法陣の呪 が、ずっと派手に輝いて眩しいくらいである。
自分に会うために、怖がりな宝がこの魔法陣が繋ぐ異空間を抜けて、ひとりでやってきたのだ。彼にとってはかなりの勇気がいったのではないだろうか。そのことでイアンは彼に愛されていると実感するとともに、そのことを誇りに感じた。
彼のお陰で散々だと思っていた今日という日が、すっかりいいものに塗り替えられている。こうして彼が自分の傍にいてくれる限りは、自分の明日はいつまでもきっといい日であるのだろう。
それにしてもだ。
「はぁぁぁ……」
イアンは、ひとのまえでは吐かないように心がけている溜息を、盛大に吐く。一見悩ましげな表情をしているが、その頭の中身では実にくだらないことを考えている。
(それにしても、なんて惜しいことをしたんだ)
十九歳の成人男子とは思えないほどに、こんなにおぼこい宝がだ。三日前に破瓜 したばかりの未だ童貞の宝がだ。
(自分で直腸 を洗ってきただなんて……)
そのことを彼の口から聞いたときには、顎が落ちそうなほど驚いた。もちろんそのあとは羞恥に涙を浮かべながら、恐る恐る自分の股の間に手を差しこむ宝を想像して、猛烈に萌えたのだが――。
イアンには彼の初体験に立ち会えなかったことが、悔やまれてならなかった。
「はぁぁ……」
またひとつ溜息を吐くと、となりで眠っている宝の尻たぶをきゅっと抓 る。
(はじめては俺がやってやりたかったのに……)
キスも性交も宝のはじめてが自分であったのならば、ついでだからその前後も含めて全部自分が手取り足取り教えてやりたいではないか。そもそも宝のはじめての感覚は、すべて自分が与えてやりたい。
イアンはぺらりと布団を捲 ると、宝の小さくて丸い尻をじっと見つめた。彼はいったいどんな気持ちで、どんな顔をしてここに自分の指を突っ込んだのだろうか。
(ああ、見たかった……)
「はあぁぁ……」
今度の溜息は少々大きくなってしまって、寝ていた宝を起こしてしまったようだ。もそもそと動いた宝がふと目を開けた。
「……イアン? 今なんか云った?」
「ああ。宝……」
イアンは宝の尻の間に二本の指をあてがうと、「ここ」と云ってするりと撫でた。身体を彼のほうに向けて、まだぼんやりしている宝の目じりにキスをする。
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