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第1話

恋人たちが集う繁華街は、イルミネーションで煌びやかに飾られていた。もう時期、クリスマスがやってくる。巷では寒波の影響もあり、ホワイトクリスマスへの期待が高まつつあった。 寄り添うようにベンチに座る男女の恋人が、イルミネーションを見上げる子どもを見つめながら楽しそうに言葉を交わしている。自分たちの将来を思い描いているのだろうか。 そんな浮かれた様子の風情を横目に、光の届かない街角でおれは一人佇んでいた。 『……本当は、結婚してるんだ』 出会って半年になる男にそう告げられたとき、何故だか不思議と驚きはしなかった。連絡は決まって先方からだったし、約束をドタキャンされることなんて日常茶飯事だったから、この人にはこの人の生活があるんだろうなって自然とそう感じさせられていた。だからこそ、やっぱりな…と素直に納得ができたのかもしれない。 連絡先を消そうかどうか悩んだ末、消さなくても放置すればいいだけだと自分の中で結論を出し、そのまま消さずにスマートホンをポケットにしまった。実際のところ、臆病なだけなのだ。それを消してしまえば唯一の繋がりが消えそうで、楽しかった思い出さえも消えてしまいそうで、自分が傷つくことを恐れていた…。 「おまえいい加減にしろよ」 見知った男の声に顔を上げる。数分前に電話をかけてきた相手が肩で息をしていた。額には汗が浮かんでいる。おそらく慌ててやって来たのだろう。 「別に来なくてよかったのに」 今できる精いっぱいの強がりだった。本当は、不安で、惨めで、どうにかなってしまうんじゃないかってくらい寂しくて…。 「無事でよかった、ほんと…」 安心しきった男の顔に、それまで力を入れていた涙腺が箍を外したように一気に緩む。頬を濡らす涙が次々と溢れ出て、まともに前も見られない。 「…汚ねえ顔して泣くなよ。せっかくのキレイな顔が台無しだろ」 視界の片隅でその男はやれやれ…と安堵の微笑をもらした。おれはこの男が心底嫌いだ。おれの弱みも汚さも、知られたくないことさえも、こいつはおれの抱える何もかもを知っている。だから、嫌いだった。何としても、遠ざけたかった。 それなのにこいつは現れる。いつだって、どこへだって現れる。放っておいてほしくても、一人ぼっちになりたくても、こいつはそれさえも許してくれない。

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