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第2話

「りょうへい…、りょ…うへぃ…!凌平っ…」 自分を揺さぶる男の名前を連呼する。おれがこの世で一番嫌いな男の名前だ。おれが名前を呼ぶ度に、凌平は眉間に皺を寄せて、苦しそうに顔を歪めるのだ。その姿がおれは堪らない。その表情に毎回ゾクリとしていた。 「!!…やめッ!!それヤダ!!…っア////やめっ…て、」 おれの左足を肩に担いで、より深くより執拗に挿し込んでくる。腰を持ち上げられた無理な体勢とあまりの圧迫感でうまく息ができなかった。爪先から湧き上がってくる言いようのない熱とスパークする廻らない頭のせいで、只ならぬ恐怖が怒涛のように押し寄せてくる。 「…怖い。怖いよ、…りょーへい、、怖いっ…、やめ、…」 腰に置かれていた手を掴む。ゴツゴツしたこの手に触れられるといつだって安心した。息も絶え絶えになりつつも、下腹部に溜まった熱がとぐろを巻く。胸が…苦しい…。 「大丈夫、大丈夫だから。……、瑞希」 ーー、ブラックアウト。 次におれが気がついたときには、きちんと事後処理が済まされた後だった。とはいえ、マッパであることに違いはない。重い腰を上げて寝室を出る。 「おれ失神なんて久々だよ。やっぱいいもんじゃないね。なんかほんと気分最悪…」 パンイチで首にタオルをかけて、缶ビールを飲んでいた男が振り返る。シャワーを浴びたのか、さっぱりとした清潔感が漂っていた。 「色気もクソもねえな。ちったあ恥じらいを見せたらどうだ」 「お互い様でしょ。…ねえ、一口ちょーだい!」 「ダメだ。アルコール飲むと、おまえまたしたくなるだろ」 「すればいいじゃん」 「…おまえなぁ。いいから。目ぇ冷めたんなら風呂でも入ってこい。その間に軽く飯でも作っといてやるから」 「チャーハンがいい。目玉焼きも!」 「はいはい…」 おれが注文をつけると、凌平はうっとりと目を閉じて和やかな顔になる。そういうときの凌平は隙だらけだった。今がチャンスとばかりに缶ビールを奪い取る。ぐびぐびと二、三口飲んでやった。…あーでも、やっぱりビールは苦くて好きじゃない。 「うげ…、苦い」 「そう思うなら無理に飲むなって。お子様はオレンジジュースでも飲んどけよ」 「いいねぇ。久々に飲みたいかも」 大きく背伸びをして、風呂場に向かった。背中も腰もバキバキだ。無茶しやがって…と心の中で悪態を吐く。

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