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第7話◇

「――――……なに?」  手を振りほどきはせずに、オレに掴まれたまま、彼は、振り返って。  そして、まっすぐ見つめてくる。  一度、逸らされた瞳が、また自分をとらえてくれた瞬間。  ズキ、なのか、ドキ、なのか。  痛みなのか、弾んだのか。  分からないけれど、大きく動いた心臓が、早い鼓動を、刻む。 「……オレ」 「―――……?」 「オレ、あんたと……一緒に――――……居たい、かも……」 「……は?」  言ってしまってから、本当にどうしよう、と思った。  何でオレ、こんな人の、側に、居たいんだろ。  しかも、寝れるかって聞かれてるのに、そばに居たいって、  オレ、いったい、何言ってるんだろうと、自分でも、思うんだけど。  でも――――……  もし、良いと言ってくれるなら。  寝ても、良いから。  一緒に、居てみたい。  このまま、離れたくない、と、思ってしまった。  目の前の綺麗な瞳が、少し大きく見開かれて。 「……なに? 一緒に居たいって」 「――――……わかん、ない」 「……キスが、良かった?とか?」  小さく、首を振る。  違う。キスはむしろびっくりした分、マイナスだし……。  超びっくりした、だけだし。 良かったとか……分かんないし。 「ていうか、忘れてって……そんな簡単に、忘れられないし……」 「――――……?」 「キス、忘れろって、言われても、無理……」 「……良くて??」  不思議そうな顔に、ぐ、と言葉に詰まり。  もう、だから、良くてとかじゃなくて……。 「だって……キス、初めて、だった、し」 「え」 「――――……」  ……うう。そんな、びっくりしなくても……。  と思う位。彼は、目を見開いて、じっと見つめてくる。 「……ファーストキスだったのか?」 「……うん」 「え、ほんとに?」  驚いたような顔で、さらに確認されて、恥ずかしくなる。  赤くなったオレを見て、「マジか……」と呟いて。 「――――……んーと。……それで?」 「……え?」 「……一緒に居たいっていうのは、なに?」 「――――……」  なんて答えれば、良いんだろう。  困っていると。 「……ていうかお前、ほんとにキス初めてだったの?」 「……うん」  さすがにちょっとまずかったなーと、たぶん、思ってるんだろうな。  少し困ったような、顔をしてる。  少し、おかしくなってしまって。  くす、と笑ってしまった。 「――――……? なに?」 「ちょっと、悪かったと、思ってる……?」 「――――……ん、まあ……」  軽く握った手を、口に当てて、んー……と何かを考えてる。 「……お前、名前、なに?」 「……優月(ゆづき)。優しいに月って書く」 「優月、か。――――……オレ、玲央でいいよ」 「れお…」  そうだ、「神月 玲央(こうづき れお)」だ。聞いたら思い出した。  でも、口にするのは初めて。 「……なあ、優月」 「……?」  じ、と見つめられる。  ――――……優月、と、呼びかけられたことが。  なんか、嬉しくなってる。 「――――……もっかい、キスする?」 「……?」 「……ファーストキス。ちゃんとやりなおす?」 「――――……」  ――――……ちゃんと、キス……。    じ、と玲央の顔を見つめてしまう。  やりなおすって――――……。  ……やりなおすなんて、できないけど。  そんな、やりなおしてくれようと、するんだ。  ふ、と思わず笑ってしまう。 「……別に、いい。やり直さなくて」 「ん?」 「……やじゃなかったから、殴んなかったし」 「――――……嫌だったら、殴ったの?」 「……当たり前じゃん」  言ったら、玲央は、面白そうに笑った。 「――――……じゃ、やり直さなくていっか」 「うん……でも」 「……でも?」 「……玲央とキスは……したい気がする」 「――――……ふうん?」  ニヤ、と笑った玲央の、悪戯っぽい表情に。  ほんとになんで、こんなにドキドキするんだろう。  男にドキドキなんて……今までは、欠片も感じたこと、なかったのに。 「……オレとしたいの、キスだけ?」 「――――……」  だから本当に。  なんて、答えれば、良いんだろう。

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