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第6話◇

「……オレはもっと触りたいんだけど」  すり、と頬から首に、触れられる。  もう、いっぱいいっぱいすぎて、何も言葉が出てこない。    心臓が、バクバク音を立ててる。  耳まで熱くなって。  何も考えられずに、頷いてしまいそう。  でも、心は、ちょっと待て、と自分を止めている。  噂、絶対本当だろうなー……。  ……こんなところで、たまたま会った、オレなんかを、誘う位だし。  ……セフレが、男女問わずいっぱい居て。  束縛するのもされるのも嫌いだって。  本気で好きになったら、重いからって拒否られるって聞いた気がする。    オレ……多分、この人と、これ以上居たら。  好きに、なってしまう気が、する。  こんな強烈な感覚、初めてすぎて、よく分かんないけど……  束縛とかよく分かんないけど、好きになったら重くて終わりとかだと、いつかきっと絶対当てはまる……。  慣れてなくて本気になってしまいそうな、オレみたいな奴はきっと、こんな人とそんな事は始めない方が、良い。  跳ね上がってる鼓動とは、正反対の遠い場所に居る冷静な自分は、そう、判断してる。 「……オレそもそも、男……」 「全然問題ないけど」 「オレ……無理だと……思う」  何でだか、ものすごく小さく言ったオレを、何秒か見つめた後。  彼は、オレに触れていた手を、そっと離した。 「――――…無理なら仕方ないな」  その瞬間。  ズキ、と、胸が、痛んだ。  触れてた手が、離れて。  唇から笑みが、消えて。  一瞬、寂しげに、見えてしまって。 「――――……っ……」  ぎゅ、と胸が締め付けられるみたいに、痛んだ。 「キスしてごめんな。忘れて」 「――――……っ……」    ……寂しそう、なんて、  気のせいかも、しれない。  ……そもそも軽く誘ったオレに断られたからって、寂しいなんて思わなそうだし。だから、きっと、完全に、オレの気のせい、だ。  それくらい、分かってる。  でも……  不意に、さっきの呟きも、その横顔に重なって。  その瞬間、色んな噂とか、警戒とか、そういうのが全部掻き消えて。  一瞬で、唐突に自分の中を占めたのは――――……。 「――――……待っ、て……」  咄嗟に、彼の、手を掴んでしまった。

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