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第5話◇

「正直、好みのタイプじゃねえんだけど……」 「……っ」 「そんな顔されると……すげえ興味ある」  クスっと笑って、頬に触れられる。  好みじゃないなら、しないでよ……。  興味って。……興味って……っ。  ……ていうか、好みじゃないって、ちょっと傷つくし……。  と、冷静な自分は、頭の隅っこの方でその言葉に反応してるんだけれど、なぜなのか何も言葉に出てこない。  心臓が、ドキドキしすぎて、  その瞳を見上げるしか、できない。  そしたら、ふ、と笑う、形の良い唇。  ――――……この唇が、オレの、口に……  意識した瞬間、かあっと、顔に血が集まるのを感じる。  ……っていうか。  オレは本来、こんないきなりなキスに、怒るとこじゃないのかな?  ファーストキス、だったんだよ?  いいのかオレ、こんなとこで、こんな意味分からなく、奪われて。  ――――…………  ――――……だめだ。オレ、おかしい。  ……いいかも、と、思ってしまった。 「……何で、お前、何も言わねえの?」 「――――……びっくり、して」  声が、掠れてしまう。  そしたら、ふ、と彼の瞳が緩んだ。  ドキ、と、また心臓が、音を立てる。  自然と、胸を手で押さえてしまう。 「……っ」  目の前に居るだけで、こんなにドキドキして惹かれる人。   ……今まで、居ただろうか。  何なの。ただでさえカッコいいのに。  そんな風に、瞳を細めて笑ったり、しないでほしい……。 「……い、いつも……こんなこと、してるの?」 「ん? こんなことって?」 「会って、ちょっとで、こんなこと……」 「んー……こんな所で、こんな風にはしたことねーな。完全に合意の、してほしそうな奴にしかしないんだけど……」 「……っ――――……じゃ、なんで、オレに……」  オレ、絶対、してほしいなんて、思ってなかった。  ……しかも好みじゃないとか言われてるし。  そう聞いた優月に、彼は、少し黙って。  それから首を傾げた。 「……悪い。ほんとに、わかんねえ。 すっげえ興味が湧いたとしか……  びっくりさせて、ごめんな」  言いながら、そっと、頬に触れられる。  触れ方がくすぐったくて、びく、と、体が震える。 「……なあ、どうする?」 「……どうするって?」 「――――……オレと寝てみる?」 「――――……」  ほんとに、この人は……  謎すぎて……。  全然、分からない。  寝てみるって……  オレ達が、エッチな事、するってこと……だよね…?  オレ、会ったばかりの人に、そんなことに、誘われてるの?  そんなのに乗るように、見えてるの??  ……しかも、好みじゃないって言われてるのに??  好みじゃない、てのが、かなり引っかかってる自分。  ……引っかかるべきは、そこじゃないと、思うのだけど。  ……じゃあ何、好みだって言われたら、良いのか、オレ??とも思うのだけど。 「……会ったばっかり……だし」 「――――……こういうのって感覚だから、したいかどうかなんてすぐ分かると思うけど。 無理な奴はどんなに会ったって、無理」 「――――……」 「お前は? ――――……オレ、無理?」  瞳が、妖しく、揺れる。  ダメだ。  なんか……吸い込まれそう。  少なくとも、オレの平穏な世界には、さっきまで微塵も存在してなかったような無茶苦茶なこと、されてるし、言われてるのに。  なんでオレ――――……  全然嫌だって、思えないんだろう。

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