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第4話◇

 最初は、何が起きているのか、さっぱり分からなくて。  オレは、至近距離の整った顔を、ただ見つめていた。  ふ、と唇が、離れて。  呆然としたまま、数秒間、綺麗な瞳と見つめ合ってしまう。 「――――……なに……?」 「なにって……キス」  その答えを聞いた瞬間。かあっと、顔に血が上った。  あんまりびっくりしすぎて、返事が出来ない。  だって。  オレ、キス――――……初めて、だったのに。  いきなり。数分前に現れた人に、ファーストキスを奪われた、なんて。  ただただ謎すぎる、目の前の整った顔を見つめていると、また顔が近付いてきて。指で、唇に触れられた。  ぞく、と背筋がざわついて、自分でも驚く。 「――――……口、少し開けれる?」 「……っ」  触れそうな位近くで、囁かれて。  ――――……なぜなのか、オレはつい、唇を薄く開けてしまった。  すると、ふ、と笑んだ唇が重なって、少しして、舌が入ってきた。  その未知の感触に、ぎゅ、と目をつむる。  オレ――――……なに、してんだろ……。  突き飛ばせば、いいだけ、なのに。 「……っふ……」 「――――……」 「……っ……」 「――――……抵抗、しねえの?」  唇が離れたかと思ったら、そう囁かれて、見つめられて。  動けずにいたら、また唇が重なってきて、さっきよりも遠慮なく入ってきた舌に、舌を絡め取られた。 「……っん……」  ……舌って、こんな、熱いんだ……。  なんだか、熱くて、すごく動いて。……舌じゃなくて、別の生き物みたい。  激しすぎて。  ――――……振りほどけない。  口内を好きに舐められて、感覚全部が甘く、蕩けていく。   頭の中が、真っ白。 「……っん……っ……ふ、っ……」  酸素を求めて少し顔を背けた。  少し離れた唇に、すぐにまた、舌が捻じ込まれた。 「――――……ん、んん……っ」  何。  ――――……何、これ。 「…………ふ……っ……」  息が、できなくて。  自然と瞳に涙が滲む。  頑張って瞼を開いて、瞳の伏せられた目の前の顔を、見つめて。  また、ぎゅ、とつむる。  しばらくして、ゆっくりと、唇を離された。  やっと息ができて、目の前の整った顔を、ぼんやりと、見上げる。  じ、と見つめあって。そしたら、彼は、少し眉を寄せた。  なんか戸惑ってるみたいな顔で。 「……悪い――――……なんかあんまり無邪気に猫と戯れてるから」 「……え?」  ……クロと、戯れてるから……?  今何を言われてるのか、頭がぼんやりしすぎて、よく分からない。 「……感じたらどーなんのかなって、すっげえ、興味が湧いて……」  ……クロと無邪気??……無邪気に、戯れてるから?  …………感じたら……? 興味……?  意味の分からない言葉を、平気で色々並べて。  呆然としてる、オレに向けて。 「……そんな顔、すんだな……」  超イイ声でそう言って。  ふ、と笑って、頬に触れてきた。 「なあ――――……オレと寝てみない?」  ほんとに、頭が、真っ白になる。  ――――……なんか……  怒っても、いいとこだと、思うんだけど。  なんでなのか、もう。  全然、分からないけれど。  ――――……すごい、ドキドキする。  この状況でドキドキするのって――――……   絶対おかしいぞ、オレ。  まっすぐ見つめてくる、瞳を、ただ、見上げる。

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