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第20話◇

 まあ確かに。隠す事なんか、何もねえけど。  でもさっきのは――――……今迄の出会いの中でもかなり珍しいし。  いまいち、何と言っていいか分からない。  ――――……月曜、優月が来なかったら、そのまま終わるし。 「なんか面白いのに会ったけど、会っただけだから、話す事もねえっつーか……」 「面白いのって、女?」 「いや。男」 「ふうん。……てか、お前、昨日だってお泊りだろ?」 「そーだけど」 「んで、ガッコ来てすぐ、誰かひっかけたって事?」 「んー…… まだそんなに話すような事も無えし」  勇紀に聞かれるまま答えていたけれど、そこで立ち上がる。 「続きしようぜ」  水のペットボトルを置いて、そう言うと。  もうオレに話す気はないと判断したらしい3人も、すぐに立ち上がった。 「あ、玲央、今日あの部屋貸して」 「あぁ」  甲斐に言われて、鞄からキーを外して、ぽん、と投げた。 「今日明日は使わねーから」 「サンキュー」 「出る時、いつものクリーニング電話しといて」 「了解」  あの部屋、というのは、オレが住居用とは別に使ってるマンションの事。大学から徒歩五分の所にある。  親父にバンドや仲間と集まる場所が欲しいと伝えたら、すぐに購入して鍵を寄こしてきた。バンドでと伝えたから防音の部屋もあって、完璧。 メンバー全員で集まって曲を作ったりもする事もあれば、セフレとラブホ代わりとして使う事もある。親が普段から頼んでるハウスクリーニングに電話すれば、勝手に掃除しにきてくれるし、便利なので、甲斐や勇紀にはたまに貸したりもする。  持つべきは、超金持ちの、放任主義の両親。  愛情が無い訳ではないらしいが、多忙すぎて、両親共に長く一緒に過ごしたりは出来ない分、欲しいと望んだ物は大抵与えてくれる。  幼い頃は寂しい時期もあったかもしれないがもはや覚えていないし、今となっては、干渉がないのが物凄く、楽。 「今日借りて、泊まらないで帰ると思うから」 「好きにしろよ。使わねーから」 「んー。サンキュー」  2人の会話を何となく黙って聞いていた颯也が、ふと、ため息をついた。   「―――玲央さあ……あんまり変なのと絡むなよ」  不意に颯也がそう言った。 「え?何だよ、急に」  マイクを手に、振り返ると。 「さっきの面白いの、とかもさ。どんな奴かしらねーけど……お前の事好きな奴って、ほんと激しいのが多いっつーかさ。 今迄だって色々あったろ」 「まあ――――……恋人作るのやめてからは、そんなに無えよ?」 「あったじゃねーか、その部屋に盗聴器しかけられてたり。他にも色々あったろ」 「……ああ。そういえば……」  記憶に残したくなくて、忘れていた。 「セフレにあんま優しくしすぎんなよな」 「……なにそれ、ひどくしろっーの?」 「ひどくっつーか……ある程度割り切って、体だけにしとけよ」 「……んー」 「……つか、セフレ自体やめろって、オレはずっと言ってるけど」  颯也は言いながら、オレと甲斐に視線を流す。 「とばっちりが来た……」  甲斐が苦笑いを浮かべる。 「でも玲央は特にさー、付き合った子達皆やばくなってくからね。なんでなんだろ?」  勇紀が、かわいそー玲央、とため息をついてる。 「トラウマんなるよね、オレ、脇で見てるだけで、トラウマんなりそうだったもんな……」  オレは、思い出したくないものは振り切って、マイクをオンにした。 「……もう、始めよーぜ」  オレが言った事で、その会話は終了。  ――――……練習を再開した。

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