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第96話◇
――――……今のまま、優しくしてやって、か。
村澤の言葉の端々に、優月を大事に思ってるのが感じられる。
オレに複数セフレ居るの有名だし。
別に隠してねえし、こいつも知ってるだろうし――――……。
大事な優月が、オレみたいな奴のセフレになるの、許せるんだな。
何となく、意外。
こいつ、そんなのダメそうなのに。
めちゃくちゃ優しいって言ってたって――――……。
……夜中した事が、ますます悔やまれてくる。
朝意外なほど、普通だったというか。
いつも通り、赤くなったりして。
好意が消えてなかったのは良かったけど――――……。
たぶん、そもそもそういう行為の、「当たり前」とかを知らないから、あんな感じで許してくれたんだろうとは、思う。
――――……なんか今。
……めちゃくちゃ、トロトロに、甘やかして、触りたい。
つか。オレ。
――――……ずっと、優月の事ばっか。
「……あのさ」
「ん?」
「何で優月を誘ったの?」
「――――……」
「なんかお前の周りに居る女とか……男とも、優月って、全然違うからさ」
「――――……」
「言いたくなかったら別に良いんだけど。これは、オレが聞いてみたかっただけだから」
言いながら、筆箱にシャーペンと消しゴムを片付け始める。
「……何となく……?」
「何となく、なの?」
苦笑いの村澤。頷きかけて、思わず首を傾げた。
「……あー……分かんねえや」
興味があったから。キスした後の顔が、可愛かったから。
優月の反応がなんか――――……気に入ったから。
並べる事はできるけど――――……。
……決め手はよく分かんねえし。
なんか全部を、こいつに並べるのもおかしいし。
「……ふーん」
村澤は、じーっとオレを見つめてくる。
「まあ、何となく気に入ったんだろうなーってのは、分かるけど」
はは、と笑ってる。
「……村澤」
「ん?」
「……優月って、元々、男って、ありな奴?」
「無し。多分、今まで、考えた事もなかったと思う」
「――――……」
……まあ、そうだよな。
「でも優月は、自分の想いにまっすぐだからな、今はとにかくお前と居たいって思ってるから」
「――――……」
「……まあ釣り合わないって、ちょっと思ってるらしいけど」
「……?」
釣り合わない?
視線を向けると、村澤は、ふ、と笑った。
「――――……そう思ってるっぽいから。違うなら、否定してやってよ」
「……」
何だか腑に落ちないけれど、とりあえず頷く。
「……何かオレ、お前と初めてちゃんと話したかも」
クスクス笑いながら、村澤が立ち上がる。
「あー、そうだ。 昨日オレと居た女の子、見た?」
「……ああ、なんとなく」
「優月の保護者的な子だからさ。お前んとこにいつか乗り込むかも」
「――――……」
「昔から、優月の事が大事でしょーがないンだよね。だから、もし乗り込んできても、そう思って許してやって」
「……何だ、それ」
思わず笑ってしまうと。村澤も、はは、と笑った。
「……じゃオレ、昼行くね。あの子、待ってるし」
由香が廊下から、ひょこ、と顔をのぞかせてる。 じゃあなと言って足早に立ち去っていくその後ろ姿を見ながら、今の会話で、色々気になった事を考える。
軽く息をついてから、ドアの所で待っている由香の元に向かった。
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