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第170話◇

 照れてる優月と一緒にコンビニに入ると同時に、中に居た店員2人が、パッとこちらを見た。 「優月くん、こんにちは」 「と、こないだのイケメンくん」  おばちゃん2人が、すごい笑顔になった気がした。  こないだのイケメンくんって何だ……。  そんな風に思いながらも、笑顔で軽く会釈すると、優月が笑いながら、見上げてくる。 「優月くん、クロのえさ買いにきたの?」 「あ、はい」  ぱ、と、優月が店員に視線を向けて、また改めて、笑顔。 「缶詰はさっきあげちゃったから、買うならおやつにしたら?」 「うん、じゃあそうしまーす」  優月が返事をして、売り場に向かうので、その後をついて歩く。  一番下の棚にあるので、優月が、すとん、と小さくうずくまった。 「今日はこっちにしよっと」  すぐに味を決めて、優月が立ち上がる。 「買ってくるね」  言いながらレジに向かおうとする優月に、買おうか、と言いかけて、止まる。多分これは、優月には要らないんだと思ったから。  正直、いまいちどうしていいかよく分からない。  今まで、持ってる方が払えばいいと思っていた。  でも、優月が言っているのは、多分、そういう事じゃない気がする。  お金持ちだから出してもらおうとか……これっぽっちも、優月の中に無いみたいで。……嫌がられたくないしな。気を使わせるのもな。  ……って、ほんと、何を考えるべきかよく分かんねえ。  出しても何も困らないし、オレが優月と居て楽しいから居るんだから、その間に払うものは、全部出すから気にすんな、と宣言でもしてしまうか。  でもそうしたら、オレと居る時、優月は買い物をしなくなりそうな気がするし。    さっき優月が気にしていた事が、何だか凄く気になってしまって、こんな事を、だらだら考えてる自分が、謎すぎる。  レジの所で、店員のおばちゃん達と楽しそうに話してる優月を待っていると、買い終わったよー、とニコニコして近寄ってくる優月。  ん、と頷き、めちゃくちゃこっちを見ている2人に会釈をしてから、自動ドアから外にでる。 「すげえ楽しそうに話すな?」  思わず感心しながら言うと、優月が「そう?」とクスっと笑った。 「オレ、お店の人とか割とよく話すかな。地元の商店街、通り抜けるのにすごく時間かかるの。昔は毎日学校行くのに通ってたから、挨拶だけで済んだけど、今通るとすごい久しぶりだからさ」 「――――……らしすぎ」  ぷ、と笑ってしまう。その様子が、目に見えるようで。 「……コンビニのおばちゃん達、玲央の事、超イケメンって、喜んでたね」 「ふーん。ていうか、入った瞬間、ほぼ直で言われた」 「あ、そうだね」  苦笑いのオレに、優月が笑う。 「オレの地元、玲央と歩いたら、おもしろそう。皆すっごい寄ってくるんじゃないかな」  ふふ、と笑いながら言って、じっと優月が見つめてくる。 「ん?」 「――――……ほんと、カッコいいよね、玲央」  あんまりにまっすぐに言われて、言葉に詰まる。  言われ慣れて、生きてきたのに。  ……何で詰まる、オレ。 「誰に似てるの? お父さん?」 「――――……じいちゃんの若い頃に似てるらしいけど」 「へー。おじいちゃん、今もカッコいい?」 「……あの年にしたらイイほうなんじゃねえかな」 「ふーん。じゃあ、玲央も、おじいちゃんになってもカッコいいんだね」  そんな風に言った後、少し黙った優月。  ふと見下ろして、顔を覗き込むと、にこっと優月が笑って見せた。 「……どした?」 「ううん。ていうか、何が? おじいちゃんの写真見たいなーて、思ってただけ」 「じいちゃんの写真?……持ってねーな」 「……だよね。持ってたらびっくりする」  優月がクスクス笑ってる。  ……ほんとにその話だったか? 聞こうとした瞬間。    ポケットでスマホが震えた。  連続して3回。ほぼ同時に。  スマホを取り出して、メッセージを開くと3件のメッセージ。  タップして開くと。 「嘘でしょ、惚れてないつもりだつたの?」 「べた惚れの域」 「惚れてるかは自分で判断しろ。でも、過去ないレベルの執着」  上から、勇紀、甲斐、颯也。  さらに、勇紀から、爆笑してるキャラのスタンプが届いた。 「――――………っ」  絶対ぇ、面白がってるな、あいつら。  ――――……聞くんじゃなかった。  何となく、返事は分かっていたのに、何で聞いたオレ。  くそ。  惚れてる、か。  過去ない位の執着、か――――……。  ……分かってたけど。  思い切り、自覚させられた気がする。

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