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第169話◇

  ――――……惚れてる?  惚れてんのか? これって。   唐突に、部室に行って、メンバーに聞きたい衝動に駆られる。  ……あいつらって、どう思ってんだろう、オレの事。  散々からかわれてる気がするけど――――……。  オレが優月に、惚れてると思ってんのか? 「玲央、食べるの早すぎ……噛んでる??」  優月の、戸惑ったような声。 「大丈夫?」  きょとん、としてる、抜けた表情も、  今となっては、もう、可愛い以外の何物でもない……。  オレが大丈夫と頷くと、優月は、ん、と小さく頷いて、カフェオレのストローをくわえる。 「カフェオレも美味しいねー」 「ああ」  さっきまでの話なんか無かったように、完全に普通の顔をして、優月はオレを見つめてくる。    ……むしろ優月より、オレの方が、必死なんだよな。  優月は、どちらかというと、この先どうとかの話よりも、「今居られればいい」という想いが強いのだろうと思う。  そこにあるのは――――……。  多分、今しか居られないだろうという諦め、な気がする。  ……オレは、優月と、居たいと思っているから。  どうやれば、一緒に居られるか、考えてしまってる気がする。 「少し良いか?」  スマホを出しながら聞くと、優月はうん、と笑顔で頷く。  勇紀達との4人の連絡画面に、かなり躊躇いながら。 「質問」 「お前らって、オレが優月に惚れてると思ってる?」  もう面倒くさいので、直球で聞いてみた。  少し待つけれど、既読が付かない。多分今は食事中だろうと思ってスマホをしまった。 「もう良いの?」 「ん。既読つかねえし。少し待つから。食べ終わったなら行くか? コンビニも寄るだろ?」 「うん。オレ、トイレ行ってくるから待ってて?」  優月が立ち上がりかけた時。 「会計して出口に居るから」  自然と伝票を手に取りながら立ち上がると、優月が見上げてくる。 「ん?」 「なんかいっつもさ、玲央が全部払ってくれる気がするんだけど……」 「……嫌なのか?」 「ん……。なんか……なんとなく」  あまり今まで言われたことがない。  別に払うのが当然だと思っているし、周りもオレが超大金持ちの息子なのを知ってるからか、ほとんどの場合、出すとも言われない。バンドのメンバーだけは皆が嫌だと言うからいつも割り勘だけど。  まあ男は別として、女は、出させた事が、無い気がする。  ……優月は、男、か……。  でもって本人が気にするからな……。  どう考えるべきなのか、良く分からない。 「……でもここはオレがお前を連れて来たいって言ったから、払う」 「…う…ん」 「良いだろ?払わせて」  そう言うと、少しの間、まっすぐな瞳に見つめられる。  ん、と優月が頷いた。 「うん……ありがと、玲央」 「ん」  にっこり笑う優月。  金持ってる方が払えばいいだろうと思っていたから、払う事を何とも思ってなかったけれど、優月の態度で、少し考える。  普通だと、こうなのか?   そういえば、オムライスも、払うって聞かなかったっけ。支払いをしながら、なんだか優月がとても嬉しそうにしてたのを思い出す。  男だからか?  ……全部出してもらうのとか、嫌なのかな。  とりあえず会計を済ませて、優月を待ちながら、スマホを見るがまだ返事は来ていなかった。 「お待たせ」 「ん」 「ごちそうさま、玲央」 「ああ」  笑顔の優月に、何だかほんかわかしながら頷いて、その頭を撫でる。 「……玲央、外で、撫でるの……」 「ん?」 「ちょっと恥ずかしいかも……」  ぷ、と笑いながら、店のドアを開けて優月を先に通してからら店を出る。  2人並んで、道路の端を歩き出すと、優月が見上げてきた。 「玲央って、猫、好き?」 「……優月ほどじゃないけど」  くす、と笑って答えると。 「飼ってたことある?」 「家に居たのは犬」 「そっか。クロね、昔飼ってた猫にそっくりなの。最初見た時は、ほんとびっくりした。同じ黒猫でも結構顔違うんだけどね」 「人懐こいよな」 「うん。すごく可愛いよねー」  オレがたまたまあそこのベンチに座らなかったら。  そこに来たクロを、たまたま抱き上げなかったら。  優月が、たまたま探しに来なかったら。  こんな風に、一緒には居られなかったんだよな……。  そんな風に思っていたら。 「クロのおかげで、玲央に会えた気がするしね」  優月に視線を向けると。優月がふ、と笑んだ。 「クロ居なかったら、オレ、あそこで玲央としゃべってないもん」  同じこと。  今、思ってた。 「――――……」  ふと、浮かぶ。 「オレと会って、優月は良かった?」 「え?」  ものすごい、きょとん、とした顔で、数秒固まって。  それから、優月は、めちゃくちゃ笑顔になった。 「そんなの当たり前だし」 「――――……」 「オレ、クロのおかげで玲央に会えた、って、今言ったでしょ?」  クスクス笑いながら、そんな風に言う優月。  ――――…………どーしたって、愛しいとしか思えなくて。  近くに人が歩いてないことだけは、確認。  肩を抱いて、背を屈めて、優月に口づけた。 「んっ……?」  優月が見開いてる瞳を見つめながら、  舌を絡ませると、優月が、ぴくん、と震えて、ぎゅ、と瞳を閉じる。  ほんの数秒キスして、ゆっくり離した。 「…………っっれお……だから外……」   赤くなって、うろたえてる優月の頭を、くしゃくしゃと撫でた。 「悪い。可愛くて、我慢すんの無理だった」  そう言うと、ますます赤くなって、それ以上は文句も言わない。  そうやってすぐ、可愛い感じで、許すから。  調子に乗っちまうんだけどなー……。  ああ、マジで可愛い。

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