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第217話◇
まっすぐな瞳を見返しながら、ゆっくり話す。
「さっきステージで女と歌ってたろ?」
「……すぐ下ろしましたけど」
「でも、ああいうのが嫌じゃねえのか優月に聞いた。そしたら、歌ってるだけだから平気って言ったけど……もう、最初にセフレでもいいからって言ってた時と、今とじゃ大分気持ちも変わってんだから、無理して平気平気言うな、嫌なら、玲央に言え、それでもし、それを玲央が嫌がるなら――――……そんな奴の側には居るな、て言った。 そしたら、泣いたんだけど……」
「――――……」
「……何で、泣いたんだと思う?」
「――――……嫌だから?」
「何が?」
そう聞くと。
玲央は一瞬躊躇って。
「――――……オレと、離れるのが?」
それを聞いて、つい、笑ってしまった。
「何で、そう思うんだよ?」
「――――……その話何回もしてるから……嫌だってだけなら、あんな風にはいきなり泣かないかなと思って。……オレの側に居るなって、蒼さんが言ったって事で泣いたんじゃないかなって」
「――――……」
……ふうん。
一応そういう話とかも、ちゃんとしてるんだな、と思いながら。
ちゃんと、優月の事も、分かってる、か。
「あ、いっこ誤解。オレは、居るなとは言ってねーよ。反対もしてねえし。もし、玲央が、優月が嫌だっていうのを嫌がるなら、って言っただけ」
「――――……」
「泣きながら、玲央と離れるのは、やだ、だってさ。どう思う?」
「――――……」
少しして、玲央が、ふ、と笑う。
「……オレからは離れないから、大丈夫ですけど」
ふーん。
……思ったより、落ち着いてる。
今だけ一緒に居たいっつーよりは。
……この先もって、思ってる気がする。
これは――――……むしろ優月の方が、おろおろしてんのか。
大好きだけど、良いのかな、ほんとに良いのかな。みたいな。
――――……そっちな気がしてきたな。
ぷ、と笑いそうになってしまう。
すると、玲央が少しそらしてた視線を、またまっすぐに向けてきた。
「……いっこ聞いても良いですか?」
「ああ」
「……優月に恋愛感情、ありますか?」
「――――……あるって言ったら、どうすんの?」
「どうする?――――……あー……考えてなかったですけど……」
一瞬視線を彷徨わせて。
それからすぐ、オレを見つめた。
「――――……すごく手強そうだけど……渡さないつもりですけど」
まっすぐな視線。
淀みもなく、意志の強そうな瞳に、思わず笑ってしまう。
「――――……無いよ。頭撫でてやるのはちびっこん時からだし、あいつは、守りたいけど……キスしたいとか、そんな気持ちは一切ないから、恋愛感情じゃない」
言うと、玲央は、明らかにほっとした。
「……何、優月の話で、オレが優月に気があると思ってた訳?」
「――――……気があるっていうか…… とにかく可愛がってそうな感じで……。優月はいつもからかわれるって言ってましたけど」
「ああ。さっきも、オレがいつもいじめるしって言ってたな……どーなってんだ」
玲央が、くす、と笑った。
「恋愛感情が無くても、ずっと構ってきた可愛い弟だから。優月、泣かせたら、こっちに引き取るからな」
「……良く泣くんで、すぐ引き取られたら困るんですけど――――…… でも……好きでいて欲しいから、頑張るので」
は。
……良く泣くんで、だって。泣かせないとは、安易に言わないんだな。
まあ。
誠実というのか正直というのか。
見た目全然違うけど――――…… 意外と、優月と合うのかもしれない。
「優月、戻る前に、あっち戻ったら?」
「……ですね」
「今日オレ、優月連れて帰っていいのか?」
「――――……後で、向こうに、来てもらえますか?」
「……そっち行かない方がいいんじゃねえの?」
「どうなるか分かんないですけど――――……来てくれた方が、動きやすいかも。蒼さん、話合わせるのとか。得意ですよね?」
「――――……さあ。どうだか」
「オレが片思いで優月に迫ってる、て方が、優月への敵意は減るかな、と思ってて……」
「ふーん……まあ……分かった。合わせる。適当に」
言うと。
玲央はにっこり笑って。
立ち上がると、一度軽く頭を下げて、前の方へ歩いて行った。
蒼くんよりカッコいいもん。
優月が言ってたのを何となく、思い出す。
優月が泣いてたら、離れてるとか言ってたのに、すぐ来ちまうような……
まだまだ子供だけど。
居ても立っても居られなくて、涙拭きに来るとか。
優月は嬉しいんだろうな。と。
つい、微笑んでしまった。
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