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第216話◇

「……蒼くんが言った事――――……オレが、思ってたけど、よく分かんなかったことを……言葉にしてくれたみたいな気がする……」  一生懸命話してるのを黙って聞いていると、ウルウルした瞳でじっと見つめながら、優月は続ける。 「嫌じゃないと思ってたけど……やっぱり、よく考えたら少し嫌なんだけど…… でも、最初から分かってた事だし大丈夫な気もするしって……でもでも……って、すごく何度も考えてて――――…… だから今、蒼くんが言ったの…… すごく、自分の気持ちが、分かった」  そんな風に言いながら、見つめてくる優月をまっすぐ見返していると。  ウルウル潤んでいた瞳から、ぼろ、と涙が溢れた。  さすがに少し驚く。  しばらく、泣くのは、見ていなかった。 「ああもう、お前……」    まだ、そんな風に、泣くか。つか、泣けるのか。  ほんと、すげえなお前。  ――――……ほんと、変わんねえな。 「――――……でもオレ……」 「――――……」 「玲央と、離れるのは――――……やだ……」  うーーー、と噛みしめているけど、涙がぽろぽろ溢れてくる。  思わず、失笑。  なるほど。納得。  急にボロボロ泣くから、一体何で泣いたんだと、思ったけど。  そこね。  手で、頬の涙を拭ってる優月に、苦笑しながら。 「分かった分かった、泣くな、優月」  ぷ、と笑ってしまう。  こんなに一生懸命恋してるのに、離れろとか。無理だと思いながら言ったけど。  まさか、こんなに泣くとは思わなかった。  脱いで椅子に掛けてたジャケットから、ハンカチを取り出そうと、後ろを向いた時。  何だか周囲が、ざわついた気がして。  なんだ?と思った瞬間。 「優月、どうした?」  そんな声がして――――……不意に玲央が、優月の前に立った。  ざわついたのは、突然こいつが、ここに歩いてきたからか。  急に近くに来た玲央に、まわりの子等が、きゃあきゃあ言ってる。  その視線をものともせず。  玲央は、優月をまっすぐ見下ろした。 「――――……何で泣いてんの?」 「……玲央……?」  ぐい、と優月の頬の涙を指で拭う。 「玲央……」  突然現れた愛しい玲央の登場で、優月はすっかり忘れているけれど。  ――――……ここでは、いちゃつかない方が良いはず。 「優月、ダメだろ。 トイレ行ってこい。10分。泣き止んできな」 「え。あ……そっか。うん。いって、くる」  優月が急いで立ち上がって、足早に出て行った。   「で――――……とりあえずそこに座れば」  玲央に向かってそう言うと、玲央はまっすぐオレを見つめた。 「蒼く……じゃなくて…… 蒼さん、ですよね?」 「ん。――――……そこ座って。オレと話しに来た事にしようぜ」  頷いて、玲央が座る。 「……何て呼ぶ?」 「玲央で――――……オレは、何て呼べばいいですか」 「いいよ、さっき言ってた、蒼さんで。……じゃあ玲央。初めまして、だな」  玲央はオレの言葉に頷いてる。  近くで見ると、ほんと、整った顔をしてる。  まあそりゃ、モテるだろうし。  さっきの優月の涙の拭き方とか、視線とか。  可愛くてたまんないと、思ってるんだろうから――――……。  そりゃ、あれをされてる優月が、こいつを好きなのも、分かる。  壁際で、男2人並んで。  玲央と、オレって――――……一体どんな風に見えてんだか。  そう思って、ちょっと可笑しくなってると。 「優月から、すごく、蒼さん、の名前を聞きます」 「……へえ? それで、ちょっとヤキモチ妬いてる?」 「――――……」  無言。否定しないっつーのは、そういうことか。  ――――……つか、否定しねえのな。面白い。 「今、優月が泣いた理由、聞きたいか?」 「はい」  まっすぐ、見つめられる。    ――――……遠くからだと、やっぱりチャラいイメージがあったけど。  違いそうだな、というのが感想。  まあ、優月が、見た目だけの変な奴選ぶ訳ねえとは、思ってるけど。

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