215 / 856
第216話◇
「……蒼くんが言った事――――……オレが、思ってたけど、よく分かんなかったことを……言葉にしてくれたみたいな気がする……」
一生懸命話してるのを黙って聞いていると、ウルウルした瞳でじっと見つめながら、優月は続ける。
「嫌じゃないと思ってたけど……やっぱり、よく考えたら少し嫌なんだけど…… でも、最初から分かってた事だし大丈夫な気もするしって……でもでも……って、すごく何度も考えてて――――…… だから今、蒼くんが言ったの…… すごく、自分の気持ちが、分かった」
そんな風に言いながら、見つめてくる優月をまっすぐ見返していると。
ウルウル潤んでいた瞳から、ぼろ、と涙が溢れた。
さすがに少し驚く。
しばらく、泣くのは、見ていなかった。
「ああもう、お前……」
まだ、そんな風に、泣くか。つか、泣けるのか。
ほんと、すげえなお前。
――――……ほんと、変わんねえな。
「――――……でもオレ……」
「――――……」
「玲央と、離れるのは――――……やだ……」
うーーー、と噛みしめているけど、涙がぽろぽろ溢れてくる。
思わず、失笑。
なるほど。納得。
急にボロボロ泣くから、一体何で泣いたんだと、思ったけど。
そこね。
手で、頬の涙を拭ってる優月に、苦笑しながら。
「分かった分かった、泣くな、優月」
ぷ、と笑ってしまう。
こんなに一生懸命恋してるのに、離れろとか。無理だと思いながら言ったけど。
まさか、こんなに泣くとは思わなかった。
脱いで椅子に掛けてたジャケットから、ハンカチを取り出そうと、後ろを向いた時。
何だか周囲が、ざわついた気がして。
なんだ?と思った瞬間。
「優月、どうした?」
そんな声がして――――……不意に玲央が、優月の前に立った。
ざわついたのは、突然こいつが、ここに歩いてきたからか。
急に近くに来た玲央に、まわりの子等が、きゃあきゃあ言ってる。
その視線をものともせず。
玲央は、優月をまっすぐ見下ろした。
「――――……何で泣いてんの?」
「……玲央……?」
ぐい、と優月の頬の涙を指で拭う。
「玲央……」
突然現れた愛しい玲央の登場で、優月はすっかり忘れているけれど。
――――……ここでは、いちゃつかない方が良いはず。
「優月、ダメだろ。 トイレ行ってこい。10分。泣き止んできな」
「え。あ……そっか。うん。いって、くる」
優月が急いで立ち上がって、足早に出て行った。
「で――――……とりあえずそこに座れば」
玲央に向かってそう言うと、玲央はまっすぐオレを見つめた。
「蒼く……じゃなくて…… 蒼さん、ですよね?」
「ん。――――……そこ座って。オレと話しに来た事にしようぜ」
頷いて、玲央が座る。
「……何て呼ぶ?」
「玲央で――――……オレは、何て呼べばいいですか」
「いいよ、さっき言ってた、蒼さんで。……じゃあ玲央。初めまして、だな」
玲央はオレの言葉に頷いてる。
近くで見ると、ほんと、整った顔をしてる。
まあそりゃ、モテるだろうし。
さっきの優月の涙の拭き方とか、視線とか。
可愛くてたまんないと、思ってるんだろうから――――……。
そりゃ、あれをされてる優月が、こいつを好きなのも、分かる。
壁際で、男2人並んで。
玲央と、オレって――――……一体どんな風に見えてんだか。
そう思って、ちょっと可笑しくなってると。
「優月から、すごく、蒼さん、の名前を聞きます」
「……へえ? それで、ちょっとヤキモチ妬いてる?」
「――――……」
無言。否定しないっつーのは、そういうことか。
――――……つか、否定しねえのな。面白い。
「今、優月が泣いた理由、聞きたいか?」
「はい」
まっすぐ、見つめられる。
――――……遠くからだと、やっぱりチャラいイメージがあったけど。
違いそうだな、というのが感想。
まあ、優月が、見た目だけの変な奴選ぶ訳ねえとは、思ってるけど。
ともだちにシェアしよう!