214 / 827

第215話◇

 その時。視線、というのか、こっちを向いてる奴が居るなという感覚なのか、とにかく、ふ、と気になる方に視線を向けると。  玲央が、こっちを見ていた。 「――――優月、玲央、気づいたぞ」 「え。あ」  ぱ、と優月が玲央を見て。嬉しそうに笑って、手を振った。  顔は動かさず、玲央に視線だけ向けると。  玲央も嬉しそうに、優月に向かって、ふ、と笑った。  こんなに離れてンのに、ものすごく通じ合ってるみたいな顔して。  ――――……何なの。こいつら。  これで付き合ってないとか。  意味わかんねえけど。  まあ、あいつの――――……。  優月に会うまでの行いが、邪魔なんだろうな……。  あいつは、けじめつけねえと、って思ってるみたいだし。  優月は、そんなに色んな人と付き合ってた人が、優月1人とほんとに?って、どうしても思ってしまうみてぇだし。  すぐに流れ出した音楽に、玲央はマイクに触れて、歌い出した。 「あ、玲央の歌じゃないんだ。知ってる歌だね」  ウキウキした優月の声音に、ぷ、と笑ってしまう。  ――――……まあセフレも解消するって言ってたみたいだし。  優月を見てあんな風に笑い返しているし。  優月の事、可愛くてたまんねえんだろうな。あいつ。   そんな顔、してる。  多分、全然周りに居なかったタイプだろ。  ――――……つか、なかなか居ないしな。  優しい、可愛い、天然、とか――――……世の中にいくらでもいるけど。  とりあえず、優月ほど、素直というか、嫌味が無いというか……。  何て言ったらいいか分からないけど、  優月は独特。  ちびっこん時から独特で。  そのまま素直に育ってきた感じ。  優月のこんなのを、可愛がって、愛してくれる奴なら、  男でも女でもいいかも、とは思う。  もしかしたら、優月をずっと守って引っ張ってくれるなら、男の方がいいのかもしんねえけど。でも、優しい女の子と、手を取り合って、ほのぼの生きてく優月も、容易に想像できるし。    ――――……まあなんにしても、優月が幸せなら良いのだけど。  ビールのグラスを手に取って、一口飲む。 「蒼くん、玲央、歌うまい?」 「ん。ああ、上手いな」 「だよねー……カッコいいよねー」 「だから初恋フィルター……」 「かかってなくても、カッコいいでしょ?」 「……はいはい。そうだな。ほんとモテそうな奴だよな」 「うん。……キラキラしてるよねー……」  優月がぽー、と眺めているのを、横で笑ってると。  1人の女が、一緒に歌いたいーという感じで台に上がった。  降りてろよ、と玲央が多分言ってる。  でも、いいじゃん、と多分、そんなやりとりをして。  結局歌う事になったみたいで。  でも、くっつこうとしてる女を、何となく距離を取らせようとしてるのは、見て取れる。結局、ワンフレーズ歌った後は、玲央はその女を下ろさせた。 「……ああいうの、平気? 優月」 「うん。別に…… 歌ってただけだし」 「――――……ふーん」  何となく、優月の頭をくしゃくしゃ撫でる。 「……大丈夫だろ、さっきお前と目があって笑った顔は、お前の事好きそうだし」 「大丈夫って……。今オレ、平気って言ったのに。慰めてくれなくていいよ?……もともとそういう人達がいっぱい居るの知ってても、玲央と居たんだし」  そんな事を言いながら、優月は玲央を見つめている。 「――――……まあ、そう、なんだけどな」  何となく、触れてる最後によしよし、と撫でた。 「優月さ」 「うん?」 「――――……お前の良いとこは、素直なとこなんだからさ」 「……?」  玲央から視線をオレに向けて、首を傾げてる。 「……最初から分かってたからとか、そんな無理に諦めて、大丈夫とか言うなよ」 「――――……」   「そりゃ最初は、セフレでも良いって思って、それであいつと会ったんだから……他にセフレが居るの前提での関係で良いと思ってたんだろうけど」 「――――……」 「それから1週間で、お前も向こうも、全然違くなってるだろ。あいつはセフレけじめつけるって言い出してるし。 お前も、もしそうなったら、恋人になりたいんだろ。セフレじゃなくて」 「――――……」 「……そうなってくると、最初言ってた、他にセフレが居るって諦めてる時とは、違って当然。 ――――……良いと思うよ、嫌だって言って。もしも、優月がそれを嫌だって、あいつにそう言って、それをあいつが嫌がるなら」 「――――……」 「そん時は、もう、そんな奴の側に、居るなよ」 「――――……」 「お前が素直でいられない奴と、一緒に居るのはやめときな? どんなに好きでも。――――……優月の大事なとこが……なんつーかな。……曇る気がするから」 「――――…………蒼くんて」 「ん……?」 「オレ、全然――――…… 全部なんて話してないのに……」 「――――……」 「……時々、ほんとに――――…… すごいなーって、思う……」  優月が、何やら、うるうるしながら見つめてくる。  でっかい目に、星かなんか入れて、潤ませて。  そのまま、漫画に描けそうだな、お前。  ぷ、と笑ってしまう。

ともだちにシェアしよう!