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第215話◇
その時。視線、というのか、こっちを向いてる奴が居るなという感覚なのか、とにかく、ふ、と気になる方に視線を向けると。
玲央が、こっちを見ていた。
「――――優月、玲央、気づいたぞ」
「え。あ」
ぱ、と優月が玲央を見て。嬉しそうに笑って、手を振った。
顔は動かさず、玲央に視線だけ向けると。
玲央も嬉しそうに、優月に向かって、ふ、と笑った。
こんなに離れてンのに、ものすごく通じ合ってるみたいな顔して。
――――……何なの。こいつら。
これで付き合ってないとか。
意味わかんねえけど。
まあ、あいつの――――……。
優月に会うまでの行いが、邪魔なんだろうな……。
あいつは、けじめつけねえと、って思ってるみたいだし。
優月は、そんなに色んな人と付き合ってた人が、優月1人とほんとに?って、どうしても思ってしまうみてぇだし。
すぐに流れ出した音楽に、玲央はマイクに触れて、歌い出した。
「あ、玲央の歌じゃないんだ。知ってる歌だね」
ウキウキした優月の声音に、ぷ、と笑ってしまう。
――――……まあセフレも解消するって言ってたみたいだし。
優月を見てあんな風に笑い返しているし。
優月の事、可愛くてたまんねえんだろうな。あいつ。
そんな顔、してる。
多分、全然周りに居なかったタイプだろ。
――――……つか、なかなか居ないしな。
優しい、可愛い、天然、とか――――……世の中にいくらでもいるけど。
とりあえず、優月ほど、素直というか、嫌味が無いというか……。
何て言ったらいいか分からないけど、
優月は独特。
ちびっこん時から独特で。
そのまま素直に育ってきた感じ。
優月のこんなのを、可愛がって、愛してくれる奴なら、
男でも女でもいいかも、とは思う。
もしかしたら、優月をずっと守って引っ張ってくれるなら、男の方がいいのかもしんねえけど。でも、優しい女の子と、手を取り合って、ほのぼの生きてく優月も、容易に想像できるし。
――――……まあなんにしても、優月が幸せなら良いのだけど。
ビールのグラスを手に取って、一口飲む。
「蒼くん、玲央、歌うまい?」
「ん。ああ、上手いな」
「だよねー……カッコいいよねー」
「だから初恋フィルター……」
「かかってなくても、カッコいいでしょ?」
「……はいはい。そうだな。ほんとモテそうな奴だよな」
「うん。……キラキラしてるよねー……」
優月がぽー、と眺めているのを、横で笑ってると。
1人の女が、一緒に歌いたいーという感じで台に上がった。
降りてろよ、と玲央が多分言ってる。
でも、いいじゃん、と多分、そんなやりとりをして。
結局歌う事になったみたいで。
でも、くっつこうとしてる女を、何となく距離を取らせようとしてるのは、見て取れる。結局、ワンフレーズ歌った後は、玲央はその女を下ろさせた。
「……ああいうの、平気? 優月」
「うん。別に…… 歌ってただけだし」
「――――……ふーん」
何となく、優月の頭をくしゃくしゃ撫でる。
「……大丈夫だろ、さっきお前と目があって笑った顔は、お前の事好きそうだし」
「大丈夫って……。今オレ、平気って言ったのに。慰めてくれなくていいよ?……もともとそういう人達がいっぱい居るの知ってても、玲央と居たんだし」
そんな事を言いながら、優月は玲央を見つめている。
「――――……まあ、そう、なんだけどな」
何となく、触れてる最後によしよし、と撫でた。
「優月さ」
「うん?」
「――――……お前の良いとこは、素直なとこなんだからさ」
「……?」
玲央から視線をオレに向けて、首を傾げてる。
「……最初から分かってたからとか、そんな無理に諦めて、大丈夫とか言うなよ」
「――――……」
「そりゃ最初は、セフレでも良いって思って、それであいつと会ったんだから……他にセフレが居るの前提での関係で良いと思ってたんだろうけど」
「――――……」
「それから1週間で、お前も向こうも、全然違くなってるだろ。あいつはセフレけじめつけるって言い出してるし。 お前も、もしそうなったら、恋人になりたいんだろ。セフレじゃなくて」
「――――……」
「……そうなってくると、最初言ってた、他にセフレが居るって諦めてる時とは、違って当然。 ――――……良いと思うよ、嫌だって言って。もしも、優月がそれを嫌だって、あいつにそう言って、それをあいつが嫌がるなら」
「――――……」
「そん時は、もう、そんな奴の側に、居るなよ」
「――――……」
「お前が素直でいられない奴と、一緒に居るのはやめときな? どんなに好きでも。――――……優月の大事なとこが……なんつーかな。……曇る気がするから」
「――――…………蒼くんて」
「ん……?」
「オレ、全然――――…… 全部なんて話してないのに……」
「――――……」
「……時々、ほんとに――――…… すごいなーって、思う……」
優月が、何やら、うるうるしながら見つめてくる。
でっかい目に、星かなんか入れて、潤ませて。
そのまま、漫画に描けそうだな、お前。
ぷ、と笑ってしまう。
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