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第267話◇
玲央と一緒にここに戻ってきて。
玲央と一緒に蒼くんの作品を見た。
何だか、すごく不思議。
オレがずっと仲良かった蒼くんの作品を。
1週間前に知り合って、急にこんな風に付き合ってる玲央が見に来てて。
蒼さんぽい、とか。言ってて。
話を聞いてみたら、そう言ってる感覚の意味が分かる気がして。ますます不思議。
そんなに会ってないのに。
なんで分かるんだろう。「蒼さんぽい」なんて。
鼻歌歌いながら、作ってそう、なんて。
オレも、蒼くんは、そんなイメージだから。
玲央、すごいな、なんて思ってしまう。
オレが大好きな蒼くんの作品を、
――――……大好きな玲央が、いいなって言って一緒に見つめてるって。
なんかすごくすごく、不思議だけど、
なんだか心の中が暖かくて、なんか、すごく、嬉しい。
そんな風に思いながら一緒に見て。
それからお昼から帰ってきた蒼くんと玲央がしばらく話してて、玲央が出て行った。
それからずっとバタバタで、ふと、時間を見ると、もう夕方。
昼食を終えてから来る人が多かったみたいで、かなり忙しかった。
元から蒼くんのお客さまは、確実に蒼くんの所に行くし。
蒼くんが空いてると、初めて来た人とでも、気さくに話してるし。
作品もなんだろうけど、それよりも、蒼くん自身のファンですって女の人も、結構来る。
だから、とにかく蒼くんはずーっと誰かと話してる。
受付で、少し話すだけだって、かなりの人数で、結構疲れるのに、全然疲れたそぶりも無いのが、ほんと凄いなーと、思う。
不意に人が途切れて、中が急に静かになった。
ちょっと息を抜いて、沙也さんと交代で、お茶を飲んでると。
「疲れた?」
蒼くんが受付の所に歩いてきて、オレと沙也さんにそう言った。
「大丈夫です」
と沙也さんが笑う。
「疲れてるの、蒼くんじゃないの?」
オレがそう言うと、蒼くんはふ、と笑む。
「慣れてるし」
「慣れてたって疲れるでしょ?」
「へーき。 あ、コーヒー位なら飲んできていいよ」
蒼くんが言うので、オレは沙也さんに視線を向けた。
「沙也さん、どうぞ、行ってきてください。またすぐ混んじゃうかもだし」
「優月くんの方がお昼早かったし」
「オレ大丈夫です、少し座ってきてください」
「あら。優月くん、優しい」
ふふ、と沙也さんが笑う。
「じゃあ、すぐ戻りますね」
「急がなくていいですよ? 座ってゆっくりしてきて。20分位?」
蒼くんを見上げると頷いてる。2人で沙也さんを送り出した。
2人になった瞬間、んー、と蒼くんが腕を伸ばして、首を回した。
「やっぱり疲れてる?」
「まあそりゃちょっとはな」
「そうだよね。すごいと思う、蒼くん。疲れた顔全然しないでずーっと、相手してるんだもん」
「まあ――――……わざわざ来てくれてる人達だからな」
「そうだけどさ」
ほんとに、すごいと思うけど。
「あ、そうだ、優月、明日ってさ」
「うん」
「学校終わってからここ来れる?」
「ん?学校終わって……18時…半位なら来れるよ?」
「バイトの子が熱出したってさっき連絡あってさ。平日、会社帰りの人が結構来るから。優月が無理なら他に探すけど」
「いいよ、来るよ」
「悪いな――――……玲央が、嫌がるかもだけど」
「え。なんで?」
「学校終わったらすぐ一緒に居たいって感じじゃねーの?」
「――――……」
……そう言われてみると、もしかしたら、そうかな?
でも、嫌がるとかじゃないと思うんだけどな。
「優月が男とって聞いた時はほんと、驚いたけど」
「うん?」
「超愛されてるよな、優月」
クスクス、と笑いながら蒼くんが言う。
ちょっと目が点になってしまう。
「――――……愛…されてるかな??」
オウム返しみたいに呟いて。
愛かー……。
……愛。
…………ってめっちゃ恥ずかしいし!
遅れて恥ずかしさがやって来て、赤面。
「あ、優月、お客さん――――……つか、顔」
ぷ、と笑いながら「冷ましとけ」と言って、蒼くんは自ら出迎えに行ってしまった。
その間に、手の甲で、顔、冷やす。深呼吸。
愛されてるとか、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。
――――……でも。
うん。
――――……愛しちゃってるかもなあ……。オレ。
こないだまで、全く思いもしなかった感情に、正直、すごく戸惑うけど。
――――……今玲央、何してるんだろ。
そんな風に思い出すけど、またすぐ別の客が入ってきたので、気合を入れ直して、受付の仕事に戻った。
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