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第266話◇
優月と一周まわった所で、受付のもう1人の女の子が昼休憩に出て行って、優月が受付に戻った。
少し離れた所で作品を見ながら、受付で接客してる優月をこっそり見ていたけれど。思っていたよりも、大人っぽい対応で、ちゃんとしてる。
オレの前で、赤くなったり、慌てたり、泣いてたり。
――――……あそこに居ると、いつもの可愛い優月は全然見えない。
ギャップにちょっと萌える……。
なんておかしなことを思っていた時。
蒼さんが戻ってきて、優月に何か声をかけてからオレの方に歩いてきた。
「何か気に入ったのあった?」
この人のスーツ姿は――――……モデルみたいだな。
優月が着てると脱がせたくなるけど。
完璧すぎて、非の打ち所が無い感じ。
「すごく良いと思います。お世辞、抜きで」
「それはどうも」
くす、と蒼さんは笑う。
「優月が特に好きって言ってた空の写真――――……オレもすごく良いと思ってて」
「ああ、あれか?」
さっき優月と見てた写真を、蒼さんが視線で指して、ふ、と笑う。
「一瞬買わせてもらおうかと、思ったんですけど――――……蒼さんの作品を買うのは……もう少し先にします」
「全然良いけど――――……先にする理由は?」
クス、と蒼さんが笑う。
まあ聞かれるのは分かってたけど。
少し考えをまとめてから。
「今買ってって家に飾ると――――……なんか色々考えそうなんで」
ふうん? と蒼さんがオレを見る。
オレは、何秒か口を閉じて。
それから、苦笑いを浮かべてしまう。
なんか隠せる気がしないので、正直に言う事にした。
「……オレやっぱり、結構妬いてるみたいで」
これを家に飾って、それを優月が楽しそうに見るのが……色々思ってしまいそうで。
最後まで言わなかったけれど、一瞬オレをマジマジと見てから、蒼さんはくっと笑い出して、オレから視線を外して、優月の方を見つめる。
……意味、何となくでも分かったのかな。
「まあ、オレらが居た時間にって事なんだろうけど」
「――――……」
「こっちはそういう意味じゃねえし。妬く必要はないけど……」
クスクス笑ってから。
ふ、とまっすぐに見つめられた。
「まあ、妬くくらいで居た方が――――……優月大切にしそうだから、それでいいか」
「――――……」
……つか。そういう事を言う所がさ……。
なんか――――……何ともいえない。
この人って、優月以外にも、こうしてんのかな。
それとも優月だけ、なのか。
――――……何で優月って、この人に惚れないで来たんだろ。
……って、惚れてたら、無理だったと思うけど。
そんな事を考えていた間に、蒼さんが奥の方に一度消えて、すぐに戻ってきた。
「玲央、これやる」
「――――……」
今言った空の写真の、ポストカード。
「たまに見て、思い出せよ。色々。で、優月と仲良くな」
「――――……しますよ、言われなくても。仲良くは」
はは、そうかよ、と、蒼さんが笑う。
「でも……ありがとうございます」
1枚のポストカードが。
何だか、ちょっと、重い。
その時、優月が蒼さんを呼びに来た。
受付の方に視線を向けて、蒼さんが頷く。
「じゃあな、玲央。またどこかで」
オレが頭を下げた所で、蒼さんは受付の客の所に歩いて行った。
「優月、オレ、出る。――――……頑張れよ」
「うん。ありがと」
「ん。連絡待ってるから」
優月が笑むのを見つめて。そのまま、別れた。
外に出ると、途端に騒がしい。
「――――……」
手に持ってるポストカードを見つめながら、ゆっくり歩く。
ほんと。
――――…… キレイだなあ、これ。
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