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第265話◇
【side*玲央】
「……玲央、そんなにオレにキスしたいの?」
とか聞かれて。頷いたら。
「――――……帰ったら、しようね、いっぱい」
またそういう事言われると。
そっちが待ち遠しくなるし。
すんなって言ったり、顔にキスしてきたり、
帰ったらねと言われて、気分が浮いたり。
このやりとり。どこからどー見られても、バカップルでしかない気がする。
このオレがそんなものになるなんて、と、かなり引く気持ちもあるのだけれど。
何だかなー、ほんとオレ。
……惑わされまくりなの、むしろオレだよな……。
――――……カッコわる……。
個展のビルに向かって歩き出しながら、優月を見下ろしつつ。
話しながらも、んー、と考える。
もうちょっと余裕もって、優月と向かい合いたい。んだよなあ。
……ていうか、今までの余裕かましてたオレはどこ行ったんだと、過去の自分を思い出してみるけれど。
こんなに好きだと思う奴と居る事が、初めてだから。
……今までの自分を思い出しても意味がない気もする。
とりあえずちょっと落ち着かねーと、とは思うんだけど。
楽しそうに笑いながらオレを見上げてくる優月を見てると。
うーん。ダメだな。 ……ほんと、可愛い。
なんて思ってしまう。
優月と一緒に、個展の中に足を踏み入れると。
周囲の賑やかさからは一転、ものすごく、静かな空間。
その中で、蒼さんがすぐに気づいて、オレの所に歩いてきた。
「おー。よく来たな」
優月をちらっと見て。
「だから、給料減らすぞって言ったろ?」
「……っっ全然平気だし、遅れてないしっ」
「そういう事言ってんじゃねーけど。ちゃんと仕事できんの」
「できる、し!!」
小さな声で、優月が喚いてる。
もうキスしてた時からは結構経ってるし、優月も今は普通の顔してたし。
バレたというよりは、蒼さんがただ、優月をからかって遊んでるんだろうけど。
……その反応だと、何かしてたって言ってるようなもんな気がするけどな、優月……。
思いながら、苦笑いしていると。
「興味あって来た?」
蒼さんがオレにそう聞いてきた。
「はい。 蒼さんが作るものに、凄く、興味があって」
「ふーん?」
蒼さんがふ、と笑う。
「ご期待に添えるといいけど?」
なんて、言いながら。
絶対がっかりなんてさせないと、思ってるんだろうなと、感じる。
――――……オレの周り。バンドの奴らも含めて、まあイケメン率がすげえ高いんだけど。……この人、格別だな。
なんていうか、動じない魅力っつーか。そういうのが、イケメン度を更にあげてる気がするんだよな……。
優月を振り返ると、受付に荷物を置いて、隣に居るもう1人と話をしていた。蒼さんも振り返って、優月に話しかけた。
「優月、まだ休憩時間だろ? 玲央、案内してやれよ」
「あ、うん」
「オレが居るとゆっくり見れないだろ?」
クスクス笑って、蒼さんはオレに言う。
「15分で食べて戻るから。ゆっくりしてな。優月は時間になったら、沙也さんをお昼に出してあげて」
「うん」
「その間にオレを呼んでる客が来たら、電話して。すぐ出るから」
「分かった。いってらっしゃい」
蒼さんを送り出してから、優月がオレを見上げる。
「回ろう、玲央?」
「ああ」
2人で作品をゆっくり 回る。
絵も写真も、決まったテーマがある訳じゃないらしい。
撮るもの描くもの色々あるみたいだが。
「――――……蒼さんぽい、な……」
思わず、呟いてしまう。
昨日会ったばかりで、何が分かるんだと言われそうだけれど。
激しい主張がなくて。
見た人が見たままに感じればいい位の。なんかそんな感じがする。
鼻歌でも歌って作ってそうな、そんな感じ。
でもなんか見てると、色々想いが浮かんでくるような。
「蒼くんっぽいってどんな感じ?」
と優月に聞かれたので、思った感じで何となく、と説明すると。
「玲央、蒼くん会ったばかりなのに。すごいね――――……そうなんだよねー……蒼くんっぽい、んだよね」
見上げながら、ふふ、と笑う。
「オレ、この空がすごい好きで」
優月が見上げるのは、青い空に白い雲が浮かんだ、眩しい写真。
「蒼くんっぽい」
ふふ、と笑われると。
――――……なんか、少し、胸にちく、と刺さる。
子供の時から――――……優月を見守って、可愛がってきた人。
恋愛対象じゃないって、お互い言ってるけど。
そんなんより深く、信頼しあってる、長い関係に、
結構色々感じる所が、あるみたいで。
ほんと。
優月と居ると、珍しい感覚ばっか、襲ってくる。
――――……今まで思った事も無いような事ばかりで。
……新鮮っつーのか。
なんか。不思議。
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