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第269話◇

 20時になって、入り口を閉じて、閉館の案内を出してから中に戻った。  明日の受付の準備を整えてると、蒼くんが近づいてきた。 「もう他の売り場のスタッフも帰るから、優月も良いよ、帰って」 「あ、うん。蒼くんは?」 「オレはちょっと電話したりしないといけないから、少し残る」 「そっか。分かった。明日、早く来れるなら来た方がいい?」 「授業あるだろ?」 「ん。でも、いつもちゃんと出てるから。1コマ休んで来れたら来るね」 「いいよ、無理しなくて」 「うん」  受付の机の下から、鞄を出して、スーツの紙袋も出す。 「スーツ、ありがとうね、持ってきてくれて」 「ああ。玲央は? 待ってんだろ?」 「うん、多分」 「ここに迎え来てもらえば?」 「どこにいるか分かんないから……電話してみて良い?」 「いいよ」  頷いてくれるので、玲央に電話をかけてみる。 『優月? 終わったか?』 「うん、終わった。今、どこにいるの?」 『そこから5分位の店。今会計して出るから。そっち行けばいいか?』 「待ってて良い?」 『ん、待ってて』  優しい声で玲央が言って、電話が切れる。 「――――……ほんと、お前、玲央が好きなんだな」  蒼くんが急にそんな事を言うので、目が点。 「え、何で?」 「そんな用件だけの電話だけで、そんなしあわせそーな顔して」 「……してた?」  してたかなあ? と首をかしげると、蒼くんは、くっ、と笑って、頷く。 「してた。 で? すぐ来るって?」 「うん。5分位のお店だって」 「じゃそれまで一緒に待ってる」 「うん」  頷いて、ふ、と息をつく。 「忙しかったね、蒼くん。疲れたでしょ」 「立ちっぱなしがなー? 足痛ぇし。今日はもう帰って寝る」 「うんうん。明日もあるもんね」  ふふ、と笑って蒼くんを見上げていると。  あ、と蒼くんがオレを見つめてきた。 「さっきのバンドの写真だけどさ。SNSとかに載せる写真くらいなら、すぐ撮ってもいーぞ」 「えっほんと?」 「時間と場所が合えばな? ライブしてるとことか? 練習してるとことか。行ってすぐ撮るくらいなら」 「それは言ってなかったから、聞いてみるね」 「ああ」 「ありがと、蒼くん」  見上げて、ふふ、と笑ってしまう。 「なんかさっきも、思ったんだけど」 「ん?」 「玲央と蒼くんが、話してたり、蒼くんの作品を玲央が見てたりさ。その、蒼くんに玲央の写真、撮ってもらいたいな、とか思うのもさ」 「ん」 「なんか、すごく、不思議。――――……オレ、玲央に会ったの先週の金曜なんだよ。ちゃんと一緒に居たのは、月曜からだしさ。なのに、その玲央と蒼くんがなんか喋ってるのとか」  なんだか急におかしくなって、蒼くんを見上げた。 「――――……なんかさ?」 「ん?」 「……ちょっとしか会ってないのにさ。蒼くんは玲央の気持ちを想像して話すしさ。 玲央も、なんか、蒼くんの絵や写真を見て、蒼さんぽい、とか言うし」 「――――……」 「玲央と蒼くん、ちょっとしか喋ってないのに、なんか不思議」 「――――……まあ確かに。ちょっとしか会ってねえけど」 「けど?」  しばらく、んー、と考えてた蒼くんは、クッと笑い出した。 「……何となく、何言いそうか、分かる気がする」  そんな風に言う蒼くんは、何だか不思議ではあるのだけど。  ……でもなんか、ほんとにそんな気もして。    ほんと不思議。  似てる……という訳でもないんだけど。  でも、大好きな2人が、関わってるのは。  ――――……なんか、楽しいし、なんか嬉しい。  

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