268 / 856

第270話◇

【side*玲央】  ――――……マジで、疲れた、な。  しょーがねーけど。  スマホをテーブルに置いて、ため息。  連絡、取り終えて、やり取りも終えた。  肘をついて、顎をのせて、メッセージ欄をスクロールしてく。  向こうも遊びで割り切ってると思ってて。  ――――……まあそういう感じがほとんどだったけれど。  いくら割り切ってと最初に言ってても、そうじゃないんだなと思い知ったというか。――――…… 自分が悪いんだけれど。 ……疲れた。  と、その時、優月から電話。  終わったというから迎えに行く事にして、電話を切って立ち上がる。  優月の声を聞くと、ほっとする。  こんな感覚は、初めてで不思議。  何でとか、理由を考えてもよく分からないけれど、そう感じる。  ずっと一緒にいて、ずっと、声、聞いていたい。  そう思う、から。もう、感覚的なものだと思う。  蒼さんの個展のビルに近付くと、優月と蒼さんが外で待っていた。 「お疲れ様です」 「ん、玲央もお疲れ」 「玲央、ごめんね、待たせて」 「大丈夫。待ってる間にオレもしなきゃいけない事、終わったよ」 「あ、ほんと? 良かったね」  笑顔で言う優月に、ふ、と笑みが浮かぶ。 「じゃあな。気を付けて帰れよ」 「うん。蒼くんも。また明日ね」 「玲央も、またな」  蒼さんに挨拶して別れを告げて、優月と2人で歩き出した。 「優月、疲れてるか?」 「結構忙しかったから、疲れたけど」  優月は、オレを見上げて、にっこり笑う。 「玲央が居ると元気になるかも」 「――――……」  …………可愛いんだけど。お前。  とっさに答えられず。  ……つか、こんなのに返事できない位可愛いとか思うって。  抱き締めたいけど、外だから無理だし。なんて思っていると、優月は、返事が無いのは気にしてないみたいで、続けて言う。 「あ、そうだ、明日も受付することになったんだ。なんかバイトの子が熱だしちゃったんだって」 「……夕方から?」 「うん、そう」 「そっか。分かった」  じゃあどうすっかな。  最近ジムサボってたから、ジム行っといて、終わったら迎えに……。  とか一瞬で色々考えていると。  下から優月がじっと見つめてくる。 「ん?」 「明日は1人で帰るからね?」 「――――……」  先に言われて、ぷ、と笑ってしまう。 「ジム行って、そこから来ようかなーって思ってたけど。先に断られた」 「だって、大変だもん。オレ、1人で帰れるからさ」  クスクス笑う優月。 「大変ではないけど――――……」 「玲央ジム行くの?」 「マンションにあるんだよ、会員と住人が使えるジム」 「へえ……そうなんだ」 「今度優月も行く?」 「え、行ってもいいの?」 「住人の知り合いもいけるから」 「行ってみようかなーできるかなあ。運動、あんまりちゃんとしたことない」 「――――……体育位?」 「うん、しかも体育も微妙な感じでやってたというか……」  苦笑いを浮かべてる優月に、ふ、と笑ってしまう。 「優月は美術部だった?」 「うん。ずーっと」 「そっか。――――……いいじゃんか。ずっと好きな事、やってんの、すごいと思う」  優月っぽい、そういうの。  きっと中学ん時も、高校ん時も、楽しそうに絵を描いてたんだろうなあと思うだけで、なんか、微笑ましいというか。  可愛かったろうな、優月。 「――――……ん、ありがと。玲央」  嬉しそうに笑う優月の事が、やっぱり可愛く思う。 「でも運動は少しはした方がいいから、一緒にやろうぜ」  オレが言うと、うんうん、と優月が頷いてる。 「オレにも、玲央みたいに綺麗に筋肉、つくのかなあ??」  なんて言いながら、んー、と考えてから。 「なんか、想像できないけど」  あはは、と笑い出す優月。  優月に筋肉、か。少し想像してから。 「優月、綺麗だけどな、ウエスト」 「うーん。あんまり肉がついてないだけだよね。筋肉ついてない」  そう言って、何か考えた顔をした優月が少し眉を顰める。 「んー、このまま運動しないで年取ってったら、まずいかなー。運動しようかなあ……」 「どうだろうな? 優月太りそうにないけど。全体的に細いし。あー、でもちょっと筋肉つくのもいいなーエロくて」 「――――……っ」  何言ってるんですか、この人は。  という赤い顔で、声無く見上げられて、クッと笑ってしまう。 「っもう、なんですぐそうやってからかうの」 「からかってないよ、本気で言ってる」 「っ……余計だよっもうっ」  玲央はいつも恥ずかしいよね、なんて言われても。  もう、赤くなってんのが可愛くて、笑うしかできない。

ともだちにシェアしよう!