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第270話◇
【side*玲央】
――――……マジで、疲れた、な。
しょーがねーけど。
スマホをテーブルに置いて、ため息。
連絡、取り終えて、やり取りも終えた。
肘をついて、顎をのせて、メッセージ欄をスクロールしてく。
向こうも遊びで割り切ってると思ってて。
――――……まあそういう感じがほとんどだったけれど。
いくら割り切ってと最初に言ってても、そうじゃないんだなと思い知ったというか。――――…… 自分が悪いんだけれど。 ……疲れた。
と、その時、優月から電話。
終わったというから迎えに行く事にして、電話を切って立ち上がる。
優月の声を聞くと、ほっとする。
こんな感覚は、初めてで不思議。
何でとか、理由を考えてもよく分からないけれど、そう感じる。
ずっと一緒にいて、ずっと、声、聞いていたい。
そう思う、から。もう、感覚的なものだと思う。
蒼さんの個展のビルに近付くと、優月と蒼さんが外で待っていた。
「お疲れ様です」
「ん、玲央もお疲れ」
「玲央、ごめんね、待たせて」
「大丈夫。待ってる間にオレもしなきゃいけない事、終わったよ」
「あ、ほんと? 良かったね」
笑顔で言う優月に、ふ、と笑みが浮かぶ。
「じゃあな。気を付けて帰れよ」
「うん。蒼くんも。また明日ね」
「玲央も、またな」
蒼さんに挨拶して別れを告げて、優月と2人で歩き出した。
「優月、疲れてるか?」
「結構忙しかったから、疲れたけど」
優月は、オレを見上げて、にっこり笑う。
「玲央が居ると元気になるかも」
「――――……」
…………可愛いんだけど。お前。
とっさに答えられず。
……つか、こんなのに返事できない位可愛いとか思うって。
抱き締めたいけど、外だから無理だし。なんて思っていると、優月は、返事が無いのは気にしてないみたいで、続けて言う。
「あ、そうだ、明日も受付することになったんだ。なんかバイトの子が熱だしちゃったんだって」
「……夕方から?」
「うん、そう」
「そっか。分かった」
じゃあどうすっかな。
最近ジムサボってたから、ジム行っといて、終わったら迎えに……。
とか一瞬で色々考えていると。
下から優月がじっと見つめてくる。
「ん?」
「明日は1人で帰るからね?」
「――――……」
先に言われて、ぷ、と笑ってしまう。
「ジム行って、そこから来ようかなーって思ってたけど。先に断られた」
「だって、大変だもん。オレ、1人で帰れるからさ」
クスクス笑う優月。
「大変ではないけど――――……」
「玲央ジム行くの?」
「マンションにあるんだよ、会員と住人が使えるジム」
「へえ……そうなんだ」
「今度優月も行く?」
「え、行ってもいいの?」
「住人の知り合いもいけるから」
「行ってみようかなーできるかなあ。運動、あんまりちゃんとしたことない」
「――――……体育位?」
「うん、しかも体育も微妙な感じでやってたというか……」
苦笑いを浮かべてる優月に、ふ、と笑ってしまう。
「優月は美術部だった?」
「うん。ずーっと」
「そっか。――――……いいじゃんか。ずっと好きな事、やってんの、すごいと思う」
優月っぽい、そういうの。
きっと中学ん時も、高校ん時も、楽しそうに絵を描いてたんだろうなあと思うだけで、なんか、微笑ましいというか。
可愛かったろうな、優月。
「――――……ん、ありがと。玲央」
嬉しそうに笑う優月の事が、やっぱり可愛く思う。
「でも運動は少しはした方がいいから、一緒にやろうぜ」
オレが言うと、うんうん、と優月が頷いてる。
「オレにも、玲央みたいに綺麗に筋肉、つくのかなあ??」
なんて言いながら、んー、と考えてから。
「なんか、想像できないけど」
あはは、と笑い出す優月。
優月に筋肉、か。少し想像してから。
「優月、綺麗だけどな、ウエスト」
「うーん。あんまり肉がついてないだけだよね。筋肉ついてない」
そう言って、何か考えた顔をした優月が少し眉を顰める。
「んー、このまま運動しないで年取ってったら、まずいかなー。運動しようかなあ……」
「どうだろうな? 優月太りそうにないけど。全体的に細いし。あー、でもちょっと筋肉つくのもいいなーエロくて」
「――――……っ」
何言ってるんですか、この人は。
という赤い顔で、声無く見上げられて、クッと笑ってしまう。
「っもう、なんですぐそうやってからかうの」
「からかってないよ、本気で言ってる」
「っ……余計だよっもうっ」
玲央はいつも恥ずかしいよね、なんて言われても。
もう、赤くなってんのが可愛くて、笑うしかできない。
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