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第271話◇
【side*優月】
軽い夕食を食べてから電車に乗って、やっと自分の家の駅に帰ってきた。
昨日の朝、玲央と一緒にオレの家に行って、スーツを着てから2日間。
なんか、土日、ものすごく、長かった気がする。
「なんか2日間、めちゃくちゃ充実、してたね?」
「してたなー。なんか、色んな事あった気がする」
オレの言葉に、玲央もそんな風に言って、笑ってる。
改札を出て、エスカレーターで降りて、車道を歩き始めた時。
肩に手が置かれて、そのまま、立ち位置、変えられる。
――――……車側じゃない方に、自然に、動かされた感じ。
「――――……なんか……」
「ん?」
「――――……玲央ってさ」
「うん?」
じっと見上げると、優しい瞳が見つめ返してくる。
なんか。好き過ぎるんだけど。どうしよう。
なんて思いながら。
「玲央って、王子様みたい」
「――――……ん?」
玲央が、しばらく固まって。それから、ふっと笑って、オレを見ながら首を傾げた。
「王子様? 何だそれ」
クスクス笑われるけど。
だってそう思っちゃったんだよね……。
「なんかさ。ドアとか絶対開けてくれて先通してくれるしさ。道路歩いてても車道側自然と歩くしさ。 何してても、なんかさっと、色んな事してくれるし。……なんか……スマートすぎて、カッコいいから王子様って言っちゃっただけだけど」
思う事を連ねていくと、玲央が、可笑しそうにクスクス笑い出した。
「オレ、そんなに、してる?」
「うん。いつもだよ。無意識なのかな。――――……だって、今も、オレのこと、こっちに歩かせたでしょ?」
「――――……んー……言われてみれば、したかな」
「無意識なの?」
「……優月はこっちって思ってやってるかもしれないけど……あんまり考えずにやってるな……」
「だから王子様って言っちゃったんだよね。エスコート、みたいなこと、超スムーズで」
「今たまたまやったとかじゃなくて?」
オレの言葉に、玲央は、くす、と笑った。
「ううん、たまたまじゃないよ。いつもだよ。なんかいつも、奥に入れられるなーって、違和感だったんだけどさ。だって普段、そんな事されないから」
玲央の面白そうな顔を見上げながら、続ける。
「奥に入れられてるとかじゃなくて、車側じゃない方にしてくれてるんだなーって、後から気づいたんだけどさ。女の子だったら、すごいときめくと思う」
そう言ったら、ぷ、と笑いながら。
「――――……優月はときめく?」
「え」
オレは一瞬止まって、それからふ、と笑ってしまった。
「なんか玲央が優しくて、嬉しいなーと思う」
玲央は、ぷ、と笑って。
不意に肩を抱いてきた。
もうオレのマンションまであと少し。
人気もあんまり無いから良いかなと思って、近くの玲央を見つめる。
「オレは優月が可愛くて、嬉しいと思うけど」
クスクス笑いながら、超至近距離で見つめられる。
ドキと心臓が、弾む。
……うーん。
……ほんとに、玲央って。
キラキラ感が半端ないな。
オレだけが見てるのもったいないと思ってしまう位で。
そんな事を思っていたら、ふ、と思い出した。
「――――……あ。そうだ」
「ん?」
「蒼くんがね、玲央たちがもう少しおっきくなったら、写真撮ってやる、って」
「おっきくなったら?」
「バンドがもっと成長したら? ……今は蒼くん忙しくて、写真集とかは撮れないみたいなんだけど。ただ、SNSとかに載せるような写真だったら、時間とかが合えば、すぐ撮ってもいいって言ってたよ?」
「――――……そっか」
大きくなったら、か。
玲央がそんな風に言って、くす、と笑う。
「蒼さんに撮ってもらえるように頑張れって事だよな」
「……ん」
「――――……頑張るよ」
ふ、と笑った玲央の瞳は、何だか楽し気で。
なんだかすごくカッコよくて、ただ、見つめてしまう。
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