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第272話◇

【side*玲央】  優月のマンション。  昨日の朝ここから出発してから、なんだかすごく長かった気がする。  オレはライブで、優月は仕事で。でもそれ以外にも、気持ち的にも色々動いて、 何だか、たった2日で色んな事があったような。  ――――……優月と先週金曜に会ってから、今日が日曜。  たった10日、か。 「玲央、好きなとこ座ってて? 用意してくるから」 「ああ」 「あ。……えっとさ、玲央」  部屋のドアの所でぴた、と止まって、オレを振り返る。 「明日って、オレ、どうしたらいい?」 「ん? ああ。駅まで迎え行って良い?」 「あ、うん。……火曜はオレ、また絵を描きに行くんだけど……」 「迎え行こうか?」 「――――……」  優月は、ぷ、と笑い出して。  歩いてオレの所に戻って来たと思ったら、ぎゅ、と抱き付いてきた。 「――――……」 「なんか、また玲央が可愛い……」  すり、と額が頬にすり寄ってくる。  何回も何回も抱き締めてきたけど。  全部、オレからで。  ――――……こんな風に、優月から、抱き付いてきたのって。  もしかして初めてじゃねえかな。  しかも、こんな、すっぽりハマってきて。  愛しさが半端ないんだけど。  ぎゅー、と抱き締め返すと、優月が、ふふ、と笑って。 「でも玲央さ、色んな人と会ったりやる事とかもあるでしょ? だから、オレの迎えとか大丈夫だよ? オレ、男だし。むしろ、迎えに来てもらうとか、今まで無かったしさ?」  腕の中で、クスクス笑いながら、優月がおかしそうに言ってる。 「オレも玲央と居たいけど……」 「――――……」 「でも、無理してずっと一緒に居てくれなくても、大丈夫だよ、オレ」  腕の中から、まっすぐにオレを見つめて、優月が笑う。  ――――……ちょっと待て。  そこでふと気付いて、言葉を失ってしまう。  何かこれって。  ――――……オレがひたすら優月とずっと居たいって、駄々こねてるみたいな感じなのではないだろうか。  優月は、無理して一緒に居てくれなくてとか、そんな言い方をしてくれてはいるけど。  ――――……1人で平気と言ってる優月に、迎え行く、迎え行くって。  オレがただ一緒に居たいだけ……なのでは。  て。何なのオレ。  ものすごくウザイと思っていた事を、自覚なく、平気で優月に超求めてるとか。  …………少し、考えよう。 「とりあえず、優月、絵を描く道具と……火曜迄ここに来なくても平気なように、してきてくれる?」  そう言うと、優月はふ、と笑顔になって、分かった!と頷いた。  する、と腕の中から抜けて、部屋を出て行く。  リビングテーブルの椅子に腰かけて、テーブルに肘をつく。手のひらで額を覆って俯いた。  例えば、今までのオレが。例えば高校の時とか。  今日バンドの練習があるって、彼女とかに伝えた時。  バンドの練習が終わったその後会いたいからどっかで待ってるとか、言われたら。  ――――……絶対嫌だと思ってた、はず。  実際、そういう事を言う奴を、めんどくせえな、と、思ってた、ような……。  今日はもう会ってたんだし、バンドが終わってからだと、バンドの奴らとかとどっか行くかもしれないし、そういうのも考えずに、ずっとお前と会ってろっていうの?みたいな。  そんな事、思っていたような。記憶がある。  完全無意識で、その面倒くさい事を、優月にしてるとか。  …………ていうか、相手が優月とか関係なく、  そもそもこのオレが、こんな事、言うとか。  いやいや。ほんと、ねえよな。  こんなのずっと言ってたら、優月だって、さすがに嫌になるよな。  つか。皆がオレがおかしいって言うけど。ほんとおかしい気がしてくる。  うーん、と、急な自覚に、頭を抱えてると。 「玲央???」  優月のものすごく不思議そうな声が後ろから聞こえる。 「え、どうしたの? 頭痛い??」  膝をついて、少し下の位置から、俯いてたオレを見上げてくる。 「大丈夫?」  見上げてくる、まっすぐな瞳が。  愛しいなと。思ってしまう。

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