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第298話◇
「あれ、もー行くの、玲央」
昼を片付けて立ち上がると、勇紀が聞いてきた。
「ああ、もう予鈴鳴るだろうし。今日授業終わったら速攻帰りたいから、掲示板見てから3限に行く」
「何で今日は速攻?」
「優月の仕事が終わるまでに、ジムの運動終わらせておきたいから」
「終わらせといてどーすんの?」
「駅まで迎え行く」
普通に答えたら、勇紀と稔が顔を見合わせて首を振ってるし、甲斐と颯也も苦笑い。
「――――……オレらがこれに慣れないといけないんじゃねーの」
颯也がそんな風に言って、皆に視線を向けてる。
「優月が相手だと、玲央はこーなるんだって、覚えとこうぜ。じゃないと、何かある度に皆で固まんなきゃなんないし」
クッと笑って最後まで言い切ると。
甲斐も勇紀も、確かにそーだよな、と苦笑い。
「オレ、当分慣れる気がしないけど」
稔のセリフに、皆はさらに苦笑しながら、早く慣れろ、と言ってる。
「とにかく先行くわ」
「待てよ、オレも今日は帰り急ぐから、掲示板見とく」
颯也が立ち上がりながら、言う。と同時に予鈴が鳴り始めた。
「じゃーな」
颯也と一緒に食堂を出て、掲示板に向かって歩き始める。
「今日は彼女か?」
「そう」
聞くと、颯也は頷いた。
「香織、元気?」
「元気。つかライブも来てた」
「ああ……って相変わらず、香織は打上とか出ないよな」
「好きじゃないって。まあどうせ来てもそんなに構ってらんないし」
颯也の彼女は、高校までは一緒だったが、女子大に進学したので、もう全然見かけない。
「高校卒業してから一回も見てねえかも」
「そーかもな」
ふ、と颯也が笑う。
「まあでも――――……この先どーなるか分かんないかな」
「え?」
「ライブは来てたけど……」
「うまくいってないのか?」
「……別に特別問題がある訳じゃねえよ。香織の事は好きだし」
「今日は何で会うんだ?」
「会いたいって言われたから。不安なんだって」
「……そっか」
オレは、一言返して、しばし沈黙。
「……颯也はずっと何の問題もなくうまくいってんのかと思ってた」
「まあ……言ってないからな。特にお前らには」
ぷ、と颯也が笑う。
「セフレばっかのお前と甲斐には恋愛の話しても無駄だと思ってたし。勇紀はなんかしょっちゅう彼女変わるし」
クスクス笑って、颯也がオレを見る。
「今なら、玲央、少しは分かるかなと思って、話してみた」
「……それはどーも」
「前のお前にそんな事言ったら、そんなの早く別れればいーじゃん、次行けよ、で終わりそうだし」
「――――……否定できねーけど」
苦笑いのオレに、颯也も、そうだろ、とまた笑う。
「――――……玲央、今は? この話聞いてどう思う?」
「……どう思う、か」
少し考える。
「……高校ん時より離れてるから不安なの?分かる。今日会って、また会いたいか、抱きたいかで決めれば? 別れて、他の奴のものになっても良いって思うかどうかじゃねえの?」
そう言ったら、颯也は、じーっとオレを見て、ふ、と苦笑い。
「すげえまともな答え――――……今一番、玲央が変わったって思ったかも」
クスクス笑いながら、颯也がからかうように言ってくる。
からかうなよなと言いかけて。
掲示板の前に――――……見上げてる優月を発見。
「あ、優月じゃん」
言った颯也に、し、と指を立てて。
そっと、近づいて。優月の背後に立つ。上を見上げてた優月の後頭部が少し触れて。「えっ」と、優月がびっくりした顔で振り返ってきた。
「あれ、玲央? また会えたね」
ぱあ、と嬉しそうな笑顔。
会えたね、とか。可愛いんだけど……。
「あ、颯也」
「よ、優月」
後ろの颯也にも気づいて、笑顔になってる。
「おめでと、優月」
「え、何が?」
きょとんとした後。
「良かったな?」
続けて言われて分かったらしくて
あ、うん、と頷いて。ふっとオレを見上げて、嬉しそうに笑う。
何でこんなに可愛いのか、謎すぎる位、可愛い。
颯也にからかわれてる優月を見ながら、頭の中は、そんな感じ。
ヤバいな。ほんと、オレ。
少し落ち着こうと、息を付いた。
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