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第299話◇

【side*優月】  お昼を食べて、智也と美咲と別れて掲示板に寄った。  あ。5限休講だ。良かったー、休まないで済んで。  なんて思っていたら、急に後頭部が何かにぶつかって、びっくりして振り返ったら。  玲央で、更にびっくり。  わ、また会えちゃった。  ……って、掲示板の前だから、別に運命的なものでもなんでもないのだけど。でも嬉しい。  玲央と一緒に来てた颯也に、おめでとう、なんて言われて。  良かったな、とか言ってくれると。すごく嬉しい。 「優月、結局5限は出るのか??」  颯也と話し終えた所で、玲央に聞かれる。 「あ、うん。今見たら5限は休講で。だから、4限終わったらもう行ってくるね」  そう言ったら、ふ、と優しく笑んだ玲央に、よしよし、と撫でられてしまった。 「ん、分かった。気を付けてな」 「うん」  玲央を見つめて、ふ、と笑む。    少し恥ずかしいけど。  触れられるのは、いつでも、すごく嬉しい。  と思った瞬間。  くい、と引かれて、ちゅ、と頬にキスされた。 「っ」 「だいじょぶ、見えてないから」  オレが騒ぐ前に、玲央が笑ってそう言いながら、オレを少し離す。 「オレ見えてるけどなー」  苦笑いの颯也の声に、かあっと赤くなりながら。  キスされた頬に触れて固まっていると。 「すっげえ可愛いし、しばらく離れるのかと思ったらつい……」  そんな風に言う玲央に、颯也がまたまた苦笑いして。 「夜会うんじゃねえの?」 「そーだけど。今昼だし、先じゃんか」 「――――…………は、マジ? お前……」  颯也はいっつも静かに笑うイメージがあったんだけど、ははっと笑い出して、肩を震わせて笑ってる。 「――――……何で、今ここに勇紀居ねーかな……」  そんな風に呟きながら、クックッと笑い続けて。  それから、颯也はオレを見た。 「激甘の玲央のさ、外のキスとか、耐えられなくなったら、ちゃんと言えよな?」  面白そうに笑って、颯也がそんな風に言う。 「……ん……でも平気だよ?」  ふ、と笑って颯也に返してから、玲央を見上げた。 「じゃあ、後でね、玲央」 「ん」 「またね、颯也ー」 「おう、頑張れー」 「うん。バイバイ」  2人と別れて、少し遠いので足早に3限の教室に向かった。 ◇ ◇ ◇ ◇  4限が終わると同時に大学を後にして、急いで電車に乗った。  蒼くんの所の奥のトイレでスーツに着替えてから、個展のスペースに入ると、少し混んでいて、受付に列ができていた。  やっぱりこの駅周辺は、学校や会社帰りに寄る人の方が多いんだろうなと思って、すぐに挨拶をしながら受付に入る。 「優月」  一瞬顔を上げて、蒼くんと目を合わせて、頷いて、すぐに接客開始。  早く来れて良かった。そう思いながら、ひたすら案内を続ける。  ――――……なんだかものすごく、怒涛の時間が過ぎた。  それから、どれくらい時間が経ったのか。  ようやく人が途切れて、ほっと息を付いた所で、挨拶もしないままにずっと隣で一緒に働いていたその人が、オレの方を見て笑った。  背も肩幅も大きい。スーツ着てても、かなりワイルドな印象の人。  低い声がよく通って、たまにオレの声がかき消されて、もう一度言い直したりしてたりも、何度もあった。  改めて、ちゃんとまっすぐ向かうと――――……。  うん、やっぱり、ワイルドな人だなーて感じ。 「ありがとう、君が優月くん?」 「あ、はい」 「オレ、里村。来てくれて助かったよ」 「いえ。混んでましたね」  苦笑いで答えると、里村さんも肩を竦めた。 「蒼も、出来る時は一緒に受付けてくれてたんだけどなー。あいつはお客と話さなきゃいけない時あるし。あー、どうなる事かと思った」    あ、この人は蒼くんのお友達か何かなのかな。  蒼って呼び捨てている。   「里村さん、休憩とか取りました?」 「午後は取ってないな。……まあでもあと1時間ちょっとだし」  うわ、もうそんな時間。  ほんと忙しかったな……。 「優月」 「あ、蒼くん。お疲れ様ー」 「おう。来るの早かったろ。助かった」 「連絡入れたんだけど、見れてない? 5限が休講でさ。少し早く来れた」 「ああ、見れてないな――――……」  蒼くんはポケットからスマホを取り出して確認していたけれど、「あ、1件電話してくる」と言って、ドアから外に出て行った。 「優月くんは、蒼の『血のつながらない弟』なんでしょ?」 「え?」 「オレは蒼の友達なんだけど。蒼がたまに君の話しててさ。 結局その子誰なの?て聞いた時、そう言ってたンだよね」 「あー……そうなんですか?」  弟か。ふふ、なんか嬉しい。確かに蒼くんて、お兄さん以外の何者でもないなあ。実の兄弟より、面倒見てもらってる気が……。  里村さんはクスクス笑って、オレを見る。 「だから今日ちょっと会えるの楽しみにしてたんだよねー」 「あ、そうなんですか」  いたって普通のオレで、何だかすみません、と思ってしまうけれど。  何だか里村さんは、楽しそう。

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