320 / 860

第324話◇

 部室について、椅子に腰かけながら、鞄と優月の道具を机の隅に置いた。  ――――……作詞用のノートを取り出して、シャーペンと共に机に置いた。  正直――――……1限から学校に来るとか、前までなら冗談じゃなくて。  早く起きて、一緒にシャワーを浴びて、一緒にご飯を作って食べて。  少し抱き締めて、キスして、一緒に学校まで来る。とか。  なんか。  ものすごい、有意義に朝、過ごしてる気がする。  そもそも、あんなに朝早く起きるっつーのが、自分でも謎。  ――――……優月を抱き締めて寝てると、ものすごく安眠するらしい。  多分優月って、寝てる時まで癒しオーラが出てるに違いない。  そんな風に思って、おかしくなってしまうけど。  可愛いんだもんなー、寝顔。  ……触れてる、髪の毛すら、なんかフワフワしてて愛おしいし。  肘をついて、ノートを眺めていたけれど。  何か、優月の事しか浮かんでこない。  飲み物でも買うか、と立ち上がる。    時間を見ると、今ようやく1限が始まった所。  部室のある棟から出て、自販機の前に立って、何を飲むか眺めていると。  優月が好きだって言ってたピーチティを発見。  ………すげー甘いけど。  でも、美味しいと嬉しそうな優月を思い出して、ふ、と笑いそうになってしまった瞬間。 「玲央……?」  呼ばれて振り返ると。  声でそうだとは気づいたけれど――――……奏人が立っていた。 「奏人……」 「おはよ、玲央」  近づいてきて、少し離れた所で、止まる。 「後ろ姿は玲央だと思ったんだけど、こんな時間に玲央が学校に居るとか無いから、別の人かなとも思った」  くす、と笑って、奏人がオレを見上げる。 「玲央、1限取らなかったよね?」 「……ああ」 「……あいつに付き合ってきたの?」 「……」  嘘をついても仕方が無いので頷く。  ふーん、と奏人は、頷いて。 「――――……なんか、玲央、違う人みたいだね」  奏人が笑った気がして、ふ、と見つめると。 「オレはさ、玲央の事好きだから――――…… 別れなくても、もし遊びたくなったら、一番に思い出してよ」 「……奏人」 「でも、もしその時、オレが誰かと付き合ってたら、断るからね。早めの方がいいと思うよ?」  くす、と笑いながら、奏人がオレを見つめる。  何と答えるべきか、少し沈黙していると。 「――――……玲央、何か飲み物買ってよ」  奏人がそう言った。 「……いいよ、押して」  電子マネーを自販機に当てると。  奏人は、さっきオレが見ていたピーチティーを買った。 「ありがと」 「……好きなのか、それ」 「うん。甘くておいしい。ていうか、多分玲央は飲まないと思うよ」  クスクス笑いながら、オレを見て。 「――――……1限だから行く。……ってか、もうだいぶ遅刻だけど」  苦笑いしながら、奏人はオレからふ、と視線を外した。 「……奏人」 「ん?」 「……ごめんな」  噛みしめるように、言うと。  奏人は、オレを再び見上げて。 「――――……謝んないでよ」  そのまま、ふ、と視線を外される。 「……今無理だけど――――……その内、また普通に話したいし」 「――――……ああ」 「会ったら挨拶位してよ」 「……良いのか?」 「無視されんのは嫌だし」 「分かった」  頷くと、奏人はじっとオレを見つめて。  ――――……ふ、と笑んで、じゃーね、と言った。  頷くと、踵を返して、歩いて行った。  何とも言えない気持ちに、ふ、と息をついた。  優月と会う前は、分からなかった。  好きとか、離れたくないとか。  セフレはもう、そう言う割り切った関係で。  勝手にそれ以上を求められても、それはオレには関係ないしと、別れるのに何の罪悪感もなかった。  優月の事が大事で、可愛くて、離したくないと思えば思う程。  ……ほんとに、特に何の感情も持たず、今までやってきた事を後悔する。    奏人が見えなくなって。  何だか気持ちを持て余して、頭をすこし掻いて、そのまま動きを止めた瞬間。 「――――……おつかれ、玲央」  そんな声に、振り返ると勇紀が立っていた。

ともだちにシェアしよう!