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第323話◇

【side*玲央】  マンションを出て、2人並んでものすごくのんびり歩いてきて、学校に到着。 「じゃあ行ってくるね。曲作るの、頑張ってね」  空いてる1限、部室で曲を作ると言ったので、優月は笑顔でオレを見上げてそう言う。 「ん。絵の道具、部室に置いといてやるよ。持って歩くの面倒だろ?」 「え。いいの?」  受け取りながら頷く。 「ん。今日4限までだよな? オレ5限までだから帰りは別だけど。その前どこで返すかな……?」 「うん。どこで、会えそう?」  優月は、嬉しそうに微笑む。 「優月、昼は?」 「多分、2限の友達と学食行くと思うけど……食べたら、クロのとこ行こうと思ってて」  そう言われて、ふーん、と考える。 「オレも2限が勇紀と一緒だからそのまま昼食べて……食べ終えたら、オレも行く。道具もそん時持ってくよ」 「うん、分かった。ありがとう」  にこにこ笑って、まっすぐオレを見上げてくる。  ――――……キスしたい。  ……て、どんだけだ。オレ。  優月に見上げられると、咄嗟にキスしたくなる。  ……しかも、しちゃいけない場所だと、余計に、触れたくなるとか。 「――――……あ。そうだ。付き合う事になったって伝えたから、皆がお前に会いたがってるけど――――……特に勇紀が、大騒ぎだと思うから、気をつけろよ」 「何、気をつけろって?」    クスクス可笑しそうに笑ってる優月。 「ものすごいうるさく騒ぐと思うから。会った瞬間、口塞ぐ準備する位でいろよ?」  オレはかなり本気で言ってるんだが、優月は、分かったと言いながらも、クスクス笑ってて絶対冗談だと思ってる。 「優月、本気で勇紀、うるさいからな?」 「えーと…… ん、分かった」  首を傾げつつ優月は笑って。それから、頷いた。 「昨日勇紀に、祝いたいから優月も連れて夕飯行こうって言われたけど、今日までは無理だって言っといたから。もしかしたら明日以降で誘われるかも」 「あ、そうなの? ――――……お祝いして、くれるんだ……」  そんな風に言って、嬉しそうに綻ぶ笑顔が、もう、ほんとに、可愛い。  ……のだが、まさか、今立ってる正門の前で、しかも朝イチからまじめに通ってきてる奴らの前で、優月にキス出来る訳もなく。  仕方なく、最大の接触。  優月の頭をぽんぽん、と撫でた。  瞬間、ふわ、とまた微笑む。  ――――……あー。  ……ほんと。  ――――…… 可愛すぎ。 「じゃあね、玲央」 「ん」  にっこりと笑いながら、バイバイ、と手を振って、優月が校舎の方へ歩いて行く。 「ゆーづきー」 「おーす」  少し離れた所で、優月を呼ぶ声がして、優月が笑顔でおはよー、と言ってる。数人と合流して、笑ってる。  何となく姿が見えなくなるまで居ようかなと思って、見送りながら。  ――――……楽しそうだな。  何だか、ふ、と気持ちが緩んでしまう。  つか、ほんとに柄じゃねーよな―……と、咄嗟にそんな気持ちも浮かぶ。  優月に会ってから、柄じゃないと思うような事、ひたすら色々してきたけれど。ふとしたこんな感情にすら、そう思ってしまう。  その時。視線の先で、優月がぱっと振り返った。  オレと視線が、絡んだ瞬間。    めちゃくちゃ嬉しそうににっこり笑いながら、優月がまた手を振った。  そんな優月を見た周りの奴らが、視線の先のオレを何となく眺めている。  少しだけ手を上げると、優月が校舎に入っていった。  優月が見えなくなった事に。  ちょっと、物足りないというか。……どんだけ見てたいんだと、自分に突っ込みながら。      ふ、と息をついて。  部室に向けて踵を返した。

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