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第346話◇

 キスを終えて、優月が、めちゃくちゃため息をついてるのを笑いながら。  そっと、その頬に触れたら。 「……玲央、もう、それ以上したら……」 「ん、したら?」  そろそろ、怒るかな? と、思ったら。 「……オレ、立てなくなるからね。教室までおんぶだからね」  そんな台詞に、ぷ、と笑ってしまった。 「いーぜ、全然。してやるよ、おんぶくらい」  そう言うと、優月は予想外だったのか、もうすっかり眉根が寄って、少しの間黙った後。 「――――……っやだよー、もう。 嫌がってよ、玲央」  困ったように、そんな風に言う。 「何で。全然いいよ。だったら、もうちょっとしていんだろ?」 「ち、ちがうからっ……っ オレ、ほんとに、体――――……っ」  そこまで言って、はっと気づいたらしい優月が、ぱっと口を塞ぐ。 「体……が、どーなんの?」  頭をヨシヨシしながら覗き込むと。 「――――……っ」  優月は、ぷるぷる首を振ってる。 「なんでも、な……」  ……あー。可愛い。  恥ずかしがってるっぽい優月に、最後に軽くキスする。 「――――……とにかく、夜、な?」  赤い優月を至近距離で見つめたまま、笑むと、ますます真っ赤になる。   その両頬をはさんで、ぶに、と顔を潰す。 「顔あっつ、優月」 「……玲央のせい、じゃん」  もう、頬を挟まれてるのは、拒否らないらしい。  なすがままに、ぷにぷにされながら、困った顔をしてる。 「はは。だって、すぐ赤くなって、ほんと可愛いんだもんな」 「……わざと、恥ずかしいことしてたりする?」  むむ。と優月が見上げてきて、ぷ、と笑ってしまうけど。 「いや、わざとじゃねえな。言ってる事とかは全部思ってる事だけど」 「――――……っ……」  も、余計に恥ずかしい……ぶつぶつ言いながらも、  ずっとされるがままに頬を挟まれたままの優月。  ……ほんと、可愛いな。  優月の頬をすり、と撫でて、笑いながらそっと離した。 「顔の熱引いたら行こ」  そう言うと、優月は、ん、と頷くと。  すぐ近くで色々してたオレらに関係なく、くるんと丸まって心地よさそうに寝ているクロの背を撫でる。 「もう4限まで会わないだろうから……気を付けて行けよ、絵の教室まで」 「うん」 「……帰り、ドライブするか?」 「え。いいの?」  ぱ、と優月が笑顔になる。 「いーよ」 「わー、やったー。楽しみ」  そう言うと、クロをよしよしと撫でてから、優月は立ち上がった。 「本鈴なっちゃうから、行こう、玲央」 「ん」 「クロ、またね、今度は缶詰もってくるからねー」  目が覚めたのか、優月を見上げてるクロにそう言って、よしよしと撫でてから、優月がオレの隣に並ぶ。 「あ、荷物ありがとう、玲央」 「ああ」  ん、と渡すと、オレを見上げて、ふふ、と笑う。 「場所、わかりそうだった?」 「ああ。さっき地図検索した。車停めるとこあるか?」 「うん。蒼くんの家の前に、空き地があって、そこが駐車場になってる」 「分かった。そこに停めて待ってる」 「うん。ありがと、玲央。気を付けて、来てね?」 「ん」 「オレ次こっちだから。 あとでね、玲央」  バイバイ、と手を振って、優月が離れて行く。  その後ろ姿を見送りながら。  ――――……ふ、と。微笑んでしまう。  優月って、なんかいっつも素朴なカッコしてるけど。  ――――……着飾れば、結構良い感じになりそうだよな……。  いろんな服着せてみるか。  と、ちらっと思いながら歩き始めて。  ――――……あーでもそれで、色んな奴の目に留まるのも、ムカつくな。  ……今のままでいいや。可愛いし。  オレと居る時だけ、今度めちゃくちゃ可愛くしてみよう。  ……って。独占欲、どんだけだ、オレ……。  なんて、またしても色々頭溶けてそうな、誰にも言えそうにない事を考えながら、3限の教室へと急いだ。

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