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第345話◇
「――――……このままマンション連れ帰って、抱きたいけど……」
「…………っ」
一度抱き締めてから、仕方なく、腕を解いた。
「離すって約束したからしょうがないな……。コンビニ行こ」
優月の道具を持ってドアを開けると。
「うん」
通り過ぎようとした頭を撫でる。
「持つよ、ありがと」
荷物を受け取ろうとした優月を遮って。
「いいよ、別れる時渡す」
ドアを閉めて、一緒に歩き出す。
その時ふ、と。思ったのは。
「優月がさ」
「ん?」
「もっと、オレを欲しがったらいいな」
「え?」
「……オレいつも、お前が欲しいから」
そう言ったら。
「――――……今更なんだけど」
優月は、きょとんとしてオレを見上げてくる。
ふーん。
……優月も欲しがってはくれてんのか。
「オレ……ちょっと自制してるだけだよ。学校だから」
「……その自制がきかなくなる位、欲しがってくんねーかな」
頬に触れながら言ってから。
「…………って、何言ってんだろうな、オレ」
自分でちょっと呆れてしまう。
どんだけ好き好きみたいなこと、ずーっと優月に言ってんだろ。
「多分さ」
「うん?」
「優月は、オレがそういう事大好きながっついてる奴って、思ってるんだろうけどさー」
「がっついてるって…… そんなこと、思わないよ?」
「そうか?」
「うん」
「……今までこんな風にはしてないんだぜ? 信じる?」
斜めに見下ろすと。優月はじー、とオレを見つめる。
見られている事が恥ずかしくなってくるような、まっすぐな瞳で。
ふと、初めて会った時の、やたらまっすぐ見つめてくる瞳を、思い出した。
――――……あん時と、同じ。 まっすぐな、瞳。
「――――……そういや、会った時から、キスしたいキスしたいって言ってたっけな、オレ」
「――――……」
思い出しているのか、んー、と視線を外した優月を覗き込む。
「そうだったなあって、今思ってるだろ」
「……キス、していい?っていうのは、聞かれたなあって……」
「うん、聞いた。キスしたかったんだよ、お前に」
――――……ほんとに、何であんなとこで、初めて会った男に。
しかも、全然エロさのかけらもなかった優月にキスしたいと思ったか。
思い出そうとしても、何だか、良く思い出せない。
……でもその後繰り返し繰り返し、キスしたいと思って、可愛いと思って、近くに居たいと、思って――――……。
全部の感情を、ずーっと上書きしてるような、感覚。
「なんか、すでに懐かしいな?」
こんな風に、一緒に居れるようになって、良かった。
そっと頬に触れて、くすぐったそうな優月の頬をぷに、と摘まんだ。
その後、どこまでの人に話すかとかを優月が改めて聞いてきて。
どこまででも、と言ってたら、家族の話になった。
オレんちは、もう少し先の方がよさそうっていうのは、ただの感覚。
出会ってすぐ、付き合ってすぐで話しても、
どうせすぐ飽きるんだろ、と言われて終わりそうだから。
長く付き合った上て、言わないと、話にもならなそう。
――――……まあ、今までのオレの行いが悪いんだけど。
優月は、付き合ってるのを話すのは後でいいから、紹介はしたいって言い出した。
双子の話をしだして。
「カッコいい人、好きだから騒ぐ」みたいなことを言ってたけど。
優月がどんなところで育ってきたのか、ずっと気になってるオレとしては。
すぐにでも行きたい位。
そんな話をしていたら。
「会いたいの? 普通、親とか会うの緊張しない?」
そう言われた。まあ、確かに世の中一般はそうだろうけど。
「会いたい気持ちの方が圧勝」
「……変なの、玲央」
優月にクスクス笑われた。
その後、優月と一緒にクロのおやつを買いに行ったコンビニで、期待値Maxのおばちゃん達をからかうとともに、優月の反応も楽しんでから店を出た。
優月は、恥ずかしがって、困ってたけど。
なんか、面白くて。
こんなに誰かを好きな事を、誰かに言ったり、ほのめかしてみたり。
そんなこと、今まで生きて来て、初。
なんかほんと――――……優月が好きで、本当に可愛いなとか、
頭溶けてそうなことを思っていたら。
チョコを渡してきて。
――――……口に入れたら、可愛いとか言いながら、つついてくる。
もうマジでダメだ。
――――……可愛いのはお前だっつーの。
人があんまり通らない、木に隠れて見えにくいから、優月がキスを受けてくれるのを良い事に。
昼休みの間中、めちゃくちゃキスしてしまった。
まあ。人に覗き込まれたら丸見えなのだけど、別にいっかと思いながら。
チョコの味が分からない位、キスが甘い、とか。
――――……ほんと、優月の発言て。
……可愛くて、頭、溶けそうになる。
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