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第373話◇
しばらく走った所で、玲央がふと。
「卵料理の店がさ、この先にあるんだけど。メインはオムライスらしいけど、他にも色々あるらしい。そこでいい?」
「うん、行きたい!」
「即答だな」
玲央がクスクス笑って、分かった、と頷く。
「楽しみ……ありがと、玲央」
「ん」
ふ、と笑う玲央。
「あ、そうだ、玲央」
「ん?」
「金曜に、クラス会しようって、今日言われたんだけど……」
「クラス会? 大学の?」
「うん」
「そっか」
「うん」
……あれ、オレ何て聞こうと思ったんだっけ。
あの時、玲央の予定はどうなんだろうって咄嗟に思ったんだよね。
別に、約束してる訳じゃないから、聞かなくても、良かったのかな??
いちいち予定決める時、聞かれても逆に面倒……?
恋人って言っても、そんな別に全部の予定知らなくてもいいのかな。
そこらへん、どうなんだろ……??
あれこれ考えていると、玲央が、ふ、と笑った。
「それ、オレ、どーしたらイイ?」
「……どうしたらって??」
玲央は、んー、と考えて。
「オレと一緒に居てほしいから、行くなって言えばいいのか」
「――――……」
「楽しんできなって言えばいいのか」
「――――……」
「……どっちが正解? それとも他にも何かある?」
そんな風に聞かれて、しばし、玲央を見つめて。
自然と笑いが零れた。
「……オレも今、玲央にこれ言って、どうしたかったのか、考えてた」
「ん?」
「金曜の約束はしてないのに、これを伝えるのって、オレ、何の意味があるんだろって。 だめって言われたいのか、行ってらっしゃいって言われたいのか……恋人でも、全部は言わなくてもいいのかなとか。……全部言ってたら、玲央が疲れちゃうかなーとか。なんかいっぱい考えてたから」
「はは。そーなんだ」
「玲央も、オレに、正解を聞くんだね」
「――――……ん、だってなー」
「ん?」
「こういう付き合い方は、長いことしてないし……ていうか、ちゃんとしてきてないから。咄嗟に分かんねえと思って。優月は、どれが嬉しいんだ?」
笑いを含んだ玲央の言葉に、オレも、微笑んでしまう。
「嬉しい……んー。とりあえずさ」
「うん」
「オレの予定を、玲央に言うのは、嫌じゃない?」
「あー。……それは、言って。オレも言うから」
「ん」
「2人で決めた予定がなければ、お前の予定優先していいよ。別にオレに聞いてからでなくて良いから」
「――――……」
「だってそのクラス会、保留にしてきたんだろ?」
「あ、うん。そう……」
「いいよ。お互い予定が入るのは当たり前だし。朝帰りとかは心配だから嫌だけど。……迎え行っちまうかも」
「――――……」
んー、と、考えながらそんな事を言う玲央に、笑ってしまう。
……そっか、迎え、来てくれるんだ。
「なんだかんだ、オレらって忙しいよな? 友達とか学校とかバンドとかあるし、お前も習い事とか色々あるんだろうし」
「うん。そだね」
「――――……だからさ。やっぱり、思うんだけど」
「うん?」
信号で止まった玲央が、オレを見るので、その顔を見つめると。
「一緒に暮らそ?」
玲央の言葉に、咄嗟に、返す言葉が出てこない。
もう、そういえば、何回か、言ってくれてたとは思うんだけど。
こんな風に、まっすぐ、問いかけられたのは初めてかなと。
笑みを含まない、真剣な瞳に。
ただ、じっと見つめ返してると。
「朝と夜、一緒に居れたら、昼間離れてても、耐える」
「……耐えるって……」
昼間離れてるって事が、玲央にとって、「耐えるようなこと」なんだと思うと――――……なんか、すごく嬉しい。
「後で話そ? 優月、マジメに考えといて?」
そう言われて、うん、と頷くと。
ふ、と笑って、玲央はまた、前を向いて、運転を再開した。
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