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第372話◇
そこで。ふと。 思い出した。
今まで、玲央って、玲央に似合うような、綺麗な人達と居たんだよなあ、なんて所で思い出したから。
自分でも、ちょっと何だかなとは思ってしまうのだけれど。
「――――……玲央」
「ん?」
「話しても、平気?」
「ん」
「運転してる時じゃない方がいい?」
「んー? 何? 聞けるから言ってみて」
「うん」
頷いてから、少し、考える。
「今日ね、4限が終わって、1人で駅に向かってる時にね」
「ん」
「……奏人くんに会って、駅まで一緒に帰ったんだよ」
「――――……ん?」
玲央がちら、とオレを見て。
「……奏人と、帰ったのか?」
「うん。そう」
「んー……どう、だった?」
「んー……どうなんだろ? ……なんて言ったらいいのかな……」
玲央の聞き方にも、オレの答え方にも、何だかすこしおかしくなって、少し、苦笑い。
「……優月が帰ろうって言ったの?」
「ううん。違う」
「違うのか……」
玲央は意外そう。
「奏人から帰ろうって?」
「ん。坂道をおりようと思ったらさ、追い越した人が、あって言ったの。そっち見たら、その人が持ってたペットボトルが落ちちゃって転がってきてさ、慌てて止めて、渡そうとしたら奏人くんで」
「――――……」
「多分、咄嗟にオレ見て、あって言っちゃったんだと思う」
そう言うと、少し間が空いた後。
玲央が苦笑いと共に。
「それで何で、一緒に帰る事になるんだ?」
「んー……奏人くんが先に歩き出したから、追い越すのも変だし、後ろついてくのも変だしって思ってて。そしたら、少し話しながら行く?って、言ってくれたから」
「……それで、並んだの?」
「うん」
玲央はまたちら、とオレを見る。
なんか、ふ、と笑んだ気がした。
「名前、聞かれて……優月って、呼ばれたよ」
「そっか」
「うん。……玲央と話せたっていうのも、聞いて……良かったなって思ったけど……それをオレが言うのもなあって思って。……話してる内に、なんか……」
「ん」
「――――……なんか、張り合いなくて、腹立つって……何かちょっとイライラさせちゃったみたいで……?」
「――――……」
「……あ、全然怒ってたとかじゃないよ、普通に話してくれてたし。……でも、なんか、何なのって言ってて……ちょっとそこらへんの奏人くんの気持ちが、オレ、よく分かんなかったんだけど……」
「――――……うん。それで?」
「……玲央と、授業とか一緒だし、話すし、誘うかもよって言われて。聞いてたら、やめろって言えよって言われて……」
「……うん。それで?」
なんか、玲央がまた少し、笑った気がする。
「……でも、それは奏人くんの自由で、玲央がそれにどうするかも、自由でって話してて……」
「しないけどな。ん、それで?」
そこだけはっきり突っ込んできて、玲央はまた先を促してくる。
「……この先は、まだどうなるかは分かんないけど、ただ……」
「うん」
「……玲央がオレと居てくれる時間は、大事にするって、話したの」
「――――……うん」
うん。多分、これで全部だよね……?
「……それ言って、奏人、何て?」
「――――……なんかオレと話すと疲れるって」
口にしたらちょっと笑ってしまった。
「全然嫌な感じじゃないんだけどそう言ってて……そしたら、奏人くん……」
オレ、モテるって。玲央の事は好きだけど、他も探す……って。
――――……でもなんか、これは、オレが言わなくても、いいような……。
「……ん。そしたら?」
「――――……うん。……まあ色々、話して……」
「ん……?」
「――――……名前、優月だよなって」
「ん?」
「……奏人くんって呼び方、気持ち悪いから、やめてって言われた」
「――――……優月って呼ぶから、奏人って呼んでってことか?」
「んー確認できなかったんだけど。今度奏人くんって呼んだら、蹴り入れるって、なんか笑ってて……」
「――――……」
「なんかすこし良い感じでお別れした気がするけど……よく分かんないけど、とりあえず、話したことは、玲央に言っとくね? 気になったら、玲央が奏人くんと、話して?」
「――――……ああ。分かった」
しばらく、何だか無言。
オレも大体全部話したいことは言ったし。
玲央は、きっと、オレと奏人くんが話すとかは、ちょっと複雑なんだろうなとも思ったし。
それで、何となく、無言でいたら。
玲央が、オレの手を、何だか、スリスリ撫でてきた。
「ん?」
「――――……なんかよく分かんねえけど」
「うん。ごめん、オレもはっきりよく分かんない……」
「……とりあえず、話して良かった?」
「あ、うん。良かったよ。多分……オレは、だけど」
そう言ったら、ふ、と玲央が笑う。
「多分それなら、奏人も良かったんだと思う」
「――――……あ、そか。うん……」
何だか。玲央の言葉が、優しくて。
言葉が、出なかった。
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