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第509話◇
「皆に少しは話したよ……あとで詳しいこと話すね」
『分かった。オレはこっちいつでも出れる。迎えに行く。どこの店?』
そう聞かれて、とりあえず、場所を答える。
『いつ終わりそう?』
「今ラストオーダーだって」
『じゃあ三十分位したら、そっち向かう。店から少し離れたとこで待っててもいいけど』
「お店の前で待ち合せでいい?」
『OK。じゃあ後でな』
やりとりを終えて、スマホをしまってふと気づくと、皆がニヤニヤしてる。
「恋人?」
「……うん」
ふ、と笑んで頷く。
「……なんか、皆、思ってたより普通だね」
さっきからずっと疑問だったことを、口に出す。
「もっと、何で?とか、なるかと思ってた」
そう言うと周りに居た皆は、んー、と少し考える。
「ふんわり女の子だと思ってたから、ちょっとびっくりはしたけど……なあ?」
「うん。びっくりはした」
「したした」
あはは、と皆が笑って。「そうだよね」とオレが言うと。
「でも、別にって感じ」
「そーそー。相手に興味はあるけど。優月がどんな奴好きなのか」
「ある! それはすげーある!」
皆が勝手にこんな奴かなーとか、色々言ってるのを聞きながら、笑っていると、隣に居た女の子達に、優月くん優月くん、と呼ばれた。
「ん?」
と体を向けると。
皆、めちゃくちゃニコニコしてる。
「優月くんて、すごいよね」
「すごい?」
「うん。すごい。あんな風に皆に言える人居ないよー」
「良く分かんないけど、感動しちゃった」
「――――……」
そうだよね、オレも、恭介と吉原が居なかったら、あんな風には言ってないけど、と思って、苦笑いしか浮かばない。感動、ていうのも……まあ。男同士だからかな。カミングアウト、あんな風にした事で、だと思うのだけど。
オレ自身がそんなに偏見とかが無くて、好きならそれで、と思ってしまったからか、普通に言っちゃったけど……確かに、ほんとなら、こんな風には言えないかもしれないし、受け止めてくれる事も、無い事なのかもしれない。
「皆も、そうなんだ位で受けとめてるしね」
「色々貴重な空間だったーここに居て良かったー」
なんて言ってすごい、笑顔。
「それは、皆がそういう人達だったから……ありがたいなーと思うよ」
去年からずっと仲良くしてる皆だから、言えたって言うのもあるし。
その皆相手でも、玲央の名前を出すのを直前で躊躇う位だから、オレもやっぱり少しは、この関係が、特別なものだって思ってるんだろうなーって気づいたけど。
「でもなんか、最近優月くんがキラキラしてるっていうのは、女子達で言ってたんだよね~」
――――……ん?? キラキラ?
「幸せオーラっていうかー、なんかニコニコしてるしー、ふわふわしてるしー可愛いよねーって」
「え」
言われたことが恥ずかしくて、固まる。
「服装変わったり、髪型ちょっと違ったり……」
「香水つけてた時もあったよね」
「え。……えっと」
「そう、だから、皆で可愛くなったーって言ってたの、絶対彼女にいじられまくってるんだろうねって」
「皆言ってたよねえ」
あはは、と女子たちが笑って、周りで聞いてた皆も、どっと笑う。
「――――……」
――――……。
皆、ほんとに、人のこと、見てるな……。
オレ、二週間位、あんまり女子と絡んでなかった気がするんだけど……。
なんか恥ずかしすぎる。
顔が熱い。
パタパタ手で扇いでると。「かわいー」「めちゃくちゃ照れてるー」と言われて、メニューで扇がれて、余計恥ずかしい。
「だから、優月くんの相手は、素敵な人なんだろうなーって」
「そうそう。勝手に思ってるよー」
「いつか教えてね、見たいー」
「そうだよ、見たいー!」
素敵な人。と言われて。
何だか、勝手に顔が綻ぶ。
「うん……」
頷くと、隣に居た子に「あーん、かわいー」と、抱き付かれてしまった。
うわ。……ちょっと酔ってる。
狼狽えた所で、反対側にいた男連中に救われた。
「優月の彼氏に怒られるぞ」
「え。ここに居ないでしょ?」
なんてやりとりを見て苦笑いしながら。
「……ありがとね」
なんか本当に思って、そう言ったら。
周りに居た皆が一瞬黙った後、ポンポン、と肩や頭や背中やらに手を置いてきて。なんだか、もみくちゃにされた。
「わー、もう、何なの??」
くしゃくしゃになった髪を直しながら言うと、皆おかしそうに笑いながら。
「とりあえず、やなことされたら言ってこい」
「そーだよ、すぐ言えよ」
なんて言われて。
すぐに、「されてないよ」と答えると。ノロケ?と笑われた。
多分、良い雰囲気の中で、うまく言えたのかな、良かった、なんて思いながら、皆と一緒に店を出ると。
店の真正面、ロータリーのベンチの横に、玲央を発見。玲央はイヤホンしてスマホを見てる。何か音楽でも、聞いてるのかな。
――――……本当に、目立つなあ。玲央って。
ずっと、皆に、玲央の事を話してる間、会いたくて会いたくて。
なんかもう、嬉しくなってしまって、ついついオレは、玲央の所に駆け寄った。
気づいた玲央が駆け寄るオレを見て、ふ、と微笑む。
「おかえり、優月」
――――……なんかその言葉が嬉しくて。
めちゃくちゃ笑顔でただいま、と玲央を見上げたら。ますます優しく笑んで、頭をよしよしされる。
「もう別れてきた?」
「あ。まだだった。別れてくる――――……ね……」
一旦、皆の所に戻ろうと振り返った瞬間。
店の前に出た皆が、まっすぐまっすぐこっちを向いていて。
じーーっと見られていることに、気付いた。オレの背後で、玲央が笑いを含んだ声で。
「言ったの? 優月」
と、聞いてくる。
「えと……誰、ってことは……言ってない」
そう言うと、玲央は、吹き出した。
「もーバレてそうだけど。――――……まあ、別れて来いよ。待ってるから」
可笑しそうに笑いながら、玲央がまたオレをめちゃくちゃナデナデしてくる。
…………っ絶対わざと、撫でてるよー、皆が見てるのにー。
「行っといで」
ふ、と優しく笑われて。
乱れた髪の毛を整えながら、んー、と複雑に頷いて。
……少し――――……かなり、逃げたい気持ちになりながら。
オレは、もう、超ワクワクしてる感じの皆の所に向かった。
(2022/7/10)
(*´ω`)(笑)
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