503 / 860

第509話◇

「皆に少しは話したよ……あとで詳しいこと話すね」 『分かった。オレはこっちいつでも出れる。迎えに行く。どこの店?』  そう聞かれて、とりあえず、場所を答える。 『いつ終わりそう?』 「今ラストオーダーだって」 『じゃあ三十分位したら、そっち向かう。店から少し離れたとこで待っててもいいけど』 「お店の前で待ち合せでいい?」 『OK。じゃあ後でな』  やりとりを終えて、スマホをしまってふと気づくと、皆がニヤニヤしてる。 「恋人?」 「……うん」  ふ、と笑んで頷く。 「……なんか、皆、思ってたより普通だね」  さっきからずっと疑問だったことを、口に出す。 「もっと、何で?とか、なるかと思ってた」  そう言うと周りに居た皆は、んー、と少し考える。 「ふんわり女の子だと思ってたから、ちょっとびっくりはしたけど……なあ?」 「うん。びっくりはした」 「したした」  あはは、と皆が笑って。「そうだよね」とオレが言うと。 「でも、別にって感じ」 「そーそー。相手に興味はあるけど。優月がどんな奴好きなのか」 「ある! それはすげーある!」  皆が勝手にこんな奴かなーとか、色々言ってるのを聞きながら、笑っていると、隣に居た女の子達に、優月くん優月くん、と呼ばれた。 「ん?」  と体を向けると。  皆、めちゃくちゃニコニコしてる。  「優月くんて、すごいよね」 「すごい?」 「うん。すごい。あんな風に皆に言える人居ないよー」 「良く分かんないけど、感動しちゃった」 「――――……」  そうだよね、オレも、恭介と吉原が居なかったら、あんな風には言ってないけど、と思って、苦笑いしか浮かばない。感動、ていうのも……まあ。男同士だからかな。カミングアウト、あんな風にした事で、だと思うのだけど。  オレ自身がそんなに偏見とかが無くて、好きならそれで、と思ってしまったからか、普通に言っちゃったけど……確かに、ほんとなら、こんな風には言えないかもしれないし、受け止めてくれる事も、無い事なのかもしれない。 「皆も、そうなんだ位で受けとめてるしね」 「色々貴重な空間だったーここに居て良かったー」  なんて言ってすごい、笑顔。 「それは、皆がそういう人達だったから……ありがたいなーと思うよ」  去年からずっと仲良くしてる皆だから、言えたって言うのもあるし。  その皆相手でも、玲央の名前を出すのを直前で躊躇う位だから、オレもやっぱり少しは、この関係が、特別なものだって思ってるんだろうなーって気づいたけど。 「でもなんか、最近優月くんがキラキラしてるっていうのは、女子達で言ってたんだよね~」  ――――……ん?? キラキラ? 「幸せオーラっていうかー、なんかニコニコしてるしー、ふわふわしてるしー可愛いよねーって」 「え」  言われたことが恥ずかしくて、固まる。 「服装変わったり、髪型ちょっと違ったり……」 「香水つけてた時もあったよね」 「え。……えっと」 「そう、だから、皆で可愛くなったーって言ってたの、絶対彼女にいじられまくってるんだろうねって」 「皆言ってたよねえ」  あはは、と女子たちが笑って、周りで聞いてた皆も、どっと笑う。 「――――……」  ――――……。  皆、ほんとに、人のこと、見てるな……。  オレ、二週間位、あんまり女子と絡んでなかった気がするんだけど……。  なんか恥ずかしすぎる。  顔が熱い。  パタパタ手で扇いでると。「かわいー」「めちゃくちゃ照れてるー」と言われて、メニューで扇がれて、余計恥ずかしい。 「だから、優月くんの相手は、素敵な人なんだろうなーって」 「そうそう。勝手に思ってるよー」 「いつか教えてね、見たいー」 「そうだよ、見たいー!」  素敵な人。と言われて。  何だか、勝手に顔が綻ぶ。 「うん……」  頷くと、隣に居た子に「あーん、かわいー」と、抱き付かれてしまった。  うわ。……ちょっと酔ってる。  狼狽えた所で、反対側にいた男連中に救われた。 「優月の彼氏に怒られるぞ」 「え。ここに居ないでしょ?」  なんてやりとりを見て苦笑いしながら。 「……ありがとね」  なんか本当に思って、そう言ったら。  周りに居た皆が一瞬黙った後、ポンポン、と肩や頭や背中やらに手を置いてきて。なんだか、もみくちゃにされた。 「わー、もう、何なの??」  くしゃくしゃになった髪を直しながら言うと、皆おかしそうに笑いながら。 「とりあえず、やなことされたら言ってこい」 「そーだよ、すぐ言えよ」  なんて言われて。  すぐに、「されてないよ」と答えると。ノロケ?と笑われた。  多分、良い雰囲気の中で、うまく言えたのかな、良かった、なんて思いながら、皆と一緒に店を出ると。  店の真正面、ロータリーのベンチの横に、玲央を発見。玲央はイヤホンしてスマホを見てる。何か音楽でも、聞いてるのかな。  ――――……本当に、目立つなあ。玲央って。  ずっと、皆に、玲央の事を話してる間、会いたくて会いたくて。  なんかもう、嬉しくなってしまって、ついついオレは、玲央の所に駆け寄った。  気づいた玲央が駆け寄るオレを見て、ふ、と微笑む。 「おかえり、優月」  ――――……なんかその言葉が嬉しくて。  めちゃくちゃ笑顔でただいま、と玲央を見上げたら。ますます優しく笑んで、頭をよしよしされる。 「もう別れてきた?」 「あ。まだだった。別れてくる――――……ね……」  一旦、皆の所に戻ろうと振り返った瞬間。  店の前に出た皆が、まっすぐまっすぐこっちを向いていて。  じーーっと見られていることに、気付いた。オレの背後で、玲央が笑いを含んだ声で。 「言ったの? 優月」  と、聞いてくる。 「えと……誰、ってことは……言ってない」  そう言うと、玲央は、吹き出した。 「もーバレてそうだけど。――――……まあ、別れて来いよ。待ってるから」  可笑しそうに笑いながら、玲央がまたオレをめちゃくちゃナデナデしてくる。  …………っ絶対わざと、撫でてるよー、皆が見てるのにー。 「行っといで」  ふ、と優しく笑われて。  乱れた髪の毛を整えながら、んー、と複雑に頷いて。  ……少し――――……かなり、逃げたい気持ちになりながら。  オレは、もう、超ワクワクしてる感じの皆の所に向かった。     (2022/7/10) (*´ω`)(笑)

ともだちにシェアしよう!