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第508話◇
リスじゃないし。
……そういえば玲央にハムスターに似てるって言われたけど。
それは言わないでおこう……。
「別に今日言わなくたって、誰も怒んねえよ」
恭介が笑いながら言う。
「誰かってのは、また今度にしたら? 男ってだけでも、わりと重大発表なんじゃねえの?」
「別に男っていうのも、言いたくないなら言わなきゃいいじゃん。オレらは、優月が言わなきゃ言わないから」
「……恭介は今、ぽろっと言ったけど」
苦笑いでそう言うと、ああそういえば、と二人が笑う。
「まあ。相手に迷惑かもって不安があるなら、今日はやめとけば?」
吉原の言葉に、そっか、そうだよね、と頷く。
……でも、あんなに写真まで撮って言ってくるねって言ったのに、結局言わなかったって報告するのも、なんだかなあ……?
うーん、と考えていると。
「優月が平気なら、男ってことだけ、言えば? 彼女、とか言われなくてすむんじゃねえの? 聞かれる時も、そっちで話せるじゃんか」
「わー、恭介って……」
「ん?」
「天才……?」
思うままにそう言ったら、二人がまた吹き出した。
「天才だってよ」
「天才かー」
二人がクスクス笑ってるけど、でもほんとにそう思う。
それでいこう、それなら、万一にでも玲央に迷惑かけないで済むし、オレはオレで、彼女じゃないよってことは言えて、すっきりするしー!
ほんとにベストな答えな気がして、ほんとにありがと、と二人に伝えると、まだしつこく笑われる。ひとしきり笑ってから、恭介が、オレにまっすぐに視線を向けた。
「じゃあ今言う? ちょうどいいんじゃねえ? 大体食べ終わってるし」
「え。……今言うって、どうやって言うの?」
「大声で、発表しまーすって言っちゃえば?」
「――――……」
一瞬その絵を想像して、ちょっと引く。
「えっ、いいよ、ちょっとずつ皆のとこ回ってくる」
「それこそーめんどくせえじゃん。なあ?」
「そーだな。今、言っちまえば?」
恭介と吉原が続けてそんな風に言ってくる。
「え……そんな風に、このこと発表する人居る……?」
「さあ? どうだろ?」
「居るんじゃねえの、たまには」
恭介はおかしそうに笑ってる。
「絶対嘘……」
ブルブル首を振ってると二人はほぼ同時に立膝になって、「おーい、皆聞いてー」と、呼びかけた。
お酒が入ってる人も居るし、自然と他の人もそれに合わせてて、かなり騒がしかった皆が、急にこっちを向いた。
何人かは、二人の間で、うわー、という顔をしてるオレを見て、ああ優月が言うのかな、という顔をしている……気がする。
「彼女の話ー? 優月ー」
そう聞かれる。
「――――……助けるから。言ってみな? 隠すの嫌なんだろ」
恭介がニヤ、と笑ってオレを見る。横で吉原も、頷いてる。
隠すの――――……うん。いつも少し、ひっかかる。
彼女、て言われる度、玲央が浮かんで、彼女じゃないけど、とか。
……ちゃんと話せないし。
オレは覚悟を決めつつも、立つ気はしなくて、座ったままで皆を見た。
違うテーブルの皆が、なになにと集まってくる。
「付き合ってる人、さ。……彼女じゃなくて……」
「なくて?」
「彼女じゃないの?」
「どーいうこと?」
皆がめちゃくちゃ、不思議そうな顔でオレを見てる。
「あの――――……男、なんだ、よね……」
普通の声のトーンで言っただけなんだけど。
静かになってくれていたので、皆に聞こえたみたい。
オレが言い終えた後、余計に、しーん、と、静かになった。
うわー……。
ものすごい静かになっちゃった。
騒がれるかと思ったら、皆、ふーん……??という顔。
「なあ、どんな奴?」
一人がそう言った。
「――――え……」
どんな……と玲央を思い浮かべて、「めちゃくちゃ、優しい……」と、呟いた瞬間。
いきなり、場が、どっと沸いた。
「何々、マジで男なのーー?」
「優月がそっちに行くとか思わなかった!」
「詳しく話せよ。大学の奴?」
すぐさま、めちゃくちゃ囲まれて、質問攻めにあうはめになった。
助ける、と言ってくれてた二人は、この場合は助ける気はなかったみたいで。頑張れーと言って、横で面白そうに聞いてるだけだし。
玲央の名前は、今日は内緒ってことにしたら、それもまた大騒ぎされて。
めちゃくちゃ質問されながら答えて、それが落ち着いたら、また席に戻った皆にあちこちで呼ばれて、おめでとうの乾杯をされたりして。
何か――――……皆、優しくて。
ちょっと泣いちゃいそうだった時。
そろそろラストオーダーだって、という声が聞こえた。
終わりそうになったら連絡してって、言われたのを思い出して、スマホを見ると、玲央からメッセージが届いていた。
『言えた? 言えなかったら、それでいーからな?』
――――……なんか。玲央まで、優しくて。
ますます泣きそう。
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